向こう数年間は周期的なロックダウンを繰り返すことになる可能性も/岩田健太郎氏(神戸大学大学院医学研究科教授)(ビデオニュース・ドットコム)

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 新型コロナウイルスが人類にとって、100年に一度あるかないかの最悪の感染症になりつつあることが、次第に明らかになってきている。

 ダイヤモンド・プリンセス号の内部の問題点を告発したことで話題を呼んだ神戸大学医学研究所の岩田健太郎教授は、自身が長年国内外で感染症に取り組んできた経験から、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は人類にとって20世紀初頭に5億人が感染し、何千万人もの死者を出したスペイン風邪に次ぐ最悪の感染症になってしまったと言う。

 しかも、その理由が「恐くないところが恐い」という厄介なものだ。つまり、5割の人が無症状、3割も軽症のため、感染の自覚がないまま社会生活を続けることでウイルスをバラマキ続けてしまう。ウイルス自体はそれほど病原性が強くないので感染者が少ないうちは簡単に抑え込めるが、甘く見ていると無症状者や軽症者が感染を広げ続け、いつの間にか水面下で感染爆発が起きている。気がついた時はもう手が付けられなくなっている。

 その様を岩田氏は「真綿で締められるように感染が広がっていく」と表現する。

 しかも、感染者の2割は重症化し、5%程度は重篤な症状に陥る。現時点でわかっているだけでも、医療が崩壊していない状態でも1%程度の、主に高齢者や基礎疾患の保有者は死亡する。さらに感染爆発が起き医療の限界を超える重症者が出れば、もはや致死率は青天井となり、院内感染も制御不能な状態に陥る。

 岩田氏は当初、日本が採用してきた、検査人数を絞り込みクラスターを抑え込むことに集中する戦略は、一定の効果をあげていたと、これを積極的に評価する。しかし、この戦略はクラスターを抑え込むことで時間を稼ぎつつ、その間に病床の数を増やしたり検査態勢を強化する「キャパシティ・ビルディング」を行うことが前提にあるはずだった。ところが、「日本はうまくいっている」という思い込みから、肝心のキャパシティ・ビルディングを怠る結果となり、当初の戦略の奏功によって稼いだ時間を無駄に浪費してしまったと岩田氏は言う。

 クラスターの抑え込みがプランAだとすると、感染者の半数以上の感染源が追跡不能になってしまった現在、戦略の転換は不可避だ。岩田氏は現在の緊急事態宣言に基づく、緩やかなロックダウンが日本にとってのプランBだと指摘した上で、もしこれで感染の広がりを押さえ込むことができなければ、プランCとしては、より厳しいロックダウンしか選択肢は残されていないと言う。

 より厳しい行動制限が課されれば経済活動も滞るし、人々のストレスもより大きくなる。市民生活がそれだけ犠牲になることは避けられない。しかし、最初に実行した行動制限が不十分で、後から継ぎ足すようにより厳しい行動制限をかけていくやり方の方が、最終的にはロックダウンの期間が長くなり、結局はより厳しいロックダウンを甘受しなければならなくなると岩田氏は言う。だから岩田氏は最初から厳しいロックダウンを実行すべきだと言う。無論、それは科学的な知見に基づいたものでなければならないが、そこでは政治的な配慮や忖度よりも、科学が優先されなければならない。

 日本はクラスターつぶしで対応できるフェーズは既に終わり、行動制限が必要な段階に入っていることは間違いない。あとは、どの程度の行動制限を課せば、R0(基本再生産数=一人の感染者が平均して直接感染させる人数)を1以下にすることができるかだ。

 岩田氏はコロナとの戦いは長期戦になることは必至だという前提の上に立ち、今後世界は周期的にロックダウンを繰り返さなければならなくなる可能性が高いとの見通しを示す。新型コロナウイルスが地球上から一掃されない限り、ある程度行動制限を解除すれば、またコロナが戻ってくることになる。流行の広がり具合を横目で睨みながら、「空襲警報のように」(岩田氏)行動制限を強化したり緩めたりの繰り返しになるだろうと、岩田氏は言うのだ。

 それもこれもいつか新型コロナウイルスを撲滅させるか、全員がこれに罹り免疫を獲得するか、もしくはワクチンや治療薬が開発できるまでのことなので、いずれ時間の問題で解決するだろうとの楽観論に対して岩田氏は、やや厳しい見方を示す。

 新型コロナウイルスは一度感染すれば体内に抗体ができ、未来永劫免疫を獲得できるかどうかは、まだはっきりとはわかっていない。既知の感染症の中にも免疫ができないものもあるし、抗体ができても一定期間しか有効でないようなものもある。また、ワクチンや治療薬の開発についても、例えばエイズのように人類が英知を結集しても未だにワクチンが開発できていない感染症もある。そういうものが必ず数年以内に開発されると考えるのは、やや楽観的過ぎると岩田氏は言う。

 とすると、この先人類はロックダウンの微調整を繰り返しながら、コロナとうまく付き合っていく方法を模索しなければならない可能性も十分にあるということだ。

 最後に岩田氏は、コロナと長く付き合っていくためにはソーシャル・ディスタンスとう概念が不可欠となることから、日本はもっと個人が他者と違う生き方や違った行動を取ることに寛容になる必要があると指摘する。日本の伝統的な「周りを見ながらみんな一緒に」の行動規範が、コロナ時代には適合していないというのだ。その上で、とにかく「距離と手」がポイントになることを知って欲しいと語る。つまり、他のどんな手段よりも、まず人から飛沫を浴びない程度の距離(1.5メートルから2メートル)を開けることと、ほとんどの感染が手を通じて口から入ってきていることから、手洗いや消毒の重要性を強調する。

 日米両国で感染症専門医の資格を持ち、世界で感染症の実態を見てきた岩田氏と、COVID-19の現状や日本の現状、そして日本のコロナ対策に対する評価とリスクコミュニケーションのあり方などについて、ジャーナリストの神保哲生と社会学者の宮台真司が議論した。

(本番組はインターネット回線を通じて遠隔で収録されたため、回線の状況により番組中、音声が乱れたり音飛びが発生する場合があります。あらかじめご了承ください。)

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【プロフィール】
岩田 健太郎(いわた けんたろう)
神戸大学大学院医学研究科教授
1971年島根県生まれ。97年島根医科大学(現:島根大学医学部)卒業。米・コロンビア大学大学病院研修医、亀田総合病院感染症内科部長などを経て2008年より現職。博士(医学)。日米両国で内科と感染症専門医の資格を保有するほか、東洋医学会専門医資格も保有。『新型コロナウイルスの真実』、『「感染症パニック」を防げ!~リスク・コミュニケーション入門』、近著に『感染症は実在しない』など。

宮台 真司 (みやだい しんじ)
東京都立大学教授/社会学者
1959年仙台生まれ。東京大学大学院博士課程修了。社会学博士。東京都立大学助教授、首都大学東京准教授を経て現職。専門は社会システム論。(博士論文は『権力の予期理論』。)著書に『日本の難点』、『14歳からの社会学』、『正義から享楽へ-映画は近代の幻を暴く-』、『私たちはどこから来て、どこへ行くのか』、共著に『民主主義が一度もなかった国・日本』など。

神保 哲生 (じんぼう てつお)
ジャーナリスト/ビデオニュース・ドットコム代表 ・編集主幹
1961年東京生まれ。87年コロンビア大学ジャーナリズム大学院修士課程修了。クリスチャン・サイエンス・モニター、AP通信など米国報道機関の記者を経て99年ニュース専門インターネット放送局『ビデオニュース・ドットコム』を開局し代表に就任。著書に『地雷リポート』、『ツバル 地球温暖化に沈む国』、『PC遠隔操作事件』、訳書に『食の終焉』、『DOPESICK アメリカを蝕むオピオイド危機』など。

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(本記事はインターネット放送局『ビデオニュース・ドットコム』の番組紹介です。詳しくは当該番組をご覧ください。)

Source : 国内 – Yahoo!ニュース

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