多くの検体「まとめて」PCR検査で、件数を増やせる?

 新型コロナウイルス感染症に対して、さまざまな検査法が利用できるようになってきました。それぞれ一長一短がありますが、やはり最終的に決め手となる検査法はPCR検査です。海外では検査を効率化するために、複数の検体を一つにまとめてからPCRをかける方法が模索されています。新型コロナウイルスに対してはまだ研究途上ですが、日本では同じ原理で輸血用血液製剤の検査が行われてきました。

 輸血用血液製剤はみなさまから献血していただいた血液からつくられますが、ウイルスが含まれている血液を輸血してしまうと感染が広がります。輸血で感染する代表的なウイルス性疾患はB型肝炎、C型肝炎、AIDS(後天性免疫不全症候群)です。これらの疾患の感染を防ぐため、輸血の安全性を確保する技術が進歩してきました。

 当初は、血液に含まれている抗体を検査し、抗体が陽性の血液は輸血に使用しないようにしていました。ただ、ウイルスに感染してから抗体ができるまでに時間がかかりますので、その時期に献血された血液から感染する可能性があります。そこで、抗体よりも鋭敏なPCR検査が行われるようになりました。ごく少量のウイルスでも検体に含まれていれば、ウイルスの核酸が増幅され、検出可能になります。

 1999年に献血検体に対するPCR検査が導入されましたが、当時は一度に大量の検体を検査できませんでした。なので、500人分の検体をまとめたものを検査していました。理論的には500検体のうち1検体にでもウイルスが含まれていれば、ウイルスの核酸は増幅され陽性に出るはずです。実際には多人数の検体をまとめると希釈され感度が落ちますので、一度にまとめる検体の数は2000年には50検体、2004年には20検体になりました。

 20検体にまとめるだけでも検査は効率的になります。ウイルスに感染している人の割合が十分に小さければ、PCRをかける回数は20分の1に近くなります。たとえば、1万人に1人がウイルスに感染していると仮定しましょう。個別にPCRをかけると1万回のPCRが必要ですが、20検体ずつにまとめると、1回目のPCRは500回で済みます。1回目のPCRで陽性になったら、そのグループの20検体のうちのどれかにウイルスが存在するはずです。その20検体をあらためて個別にPCRすれば、どの検体にウイルスが存在するのかわかります。

 2014年には献血検体を個別に検査するようになりました。きわめてまれですが、20検体をまとめる方法でも検査をすり抜けることがあったためです。日本の輸血・血液製剤の安全性は世界でもトップレベルであるのは、こうした関係者の努力のおかげです。なお、個別にPCR検査をしても感染のリスクは完全にゼロにはなりません。検査目的の献血をお断りしているのはそのためです。

 新型コロナウイルス感染症についても、検体をまとめてPCRにかける方法では感度が落ちると思われます。また、ウイルスに感染している人の割合が大きいとかえって効率が落ちますので、現在の日本でPCR検査の対象となっている人の検査には向きません。ただ、検査の手順をどうするかは目的次第です。多少は感度が落ちても多くの人を効率的に検査したいときには有効かもしれません。たとえば、いったん流行が収束したあとで、次の流行の波をいち早く検出したいときなどが考えれらます。

 まとめる検体は何人分がいいのか、そもそも本当に検体をまとめる方法がうまくいくのか、まだわからないことも多いです。また、効率化できるのはPCRをかける工程だけで、検体採取の手間は省けません。とはいえ、研究する価値は十分にあろうかと考えます。

 ※参考:核酸増幅検査|安全対策|輸血用血液製剤|医薬品情報|日本赤十字社(http://www.jrc.or.jp/mr/blood_product/safety/nat/

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Source : 社会 – 朝日新聞デジタル

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