「#ニュース4U」取材班の記者が小学3年生の娘の、算数の宿題をみていたら筆算の線を定規で引きはじめました。なぜフリーハンドで書かないのか聞くと、「定規を使わないとバツになる」といいます。インターネットで調べると、どうやら筆算の線を定規で引かせるのは特殊な指導でもなさそうです。なぜ? いつから? 「広めたのは私かもしれない」という教育者らに取材しました。
娘が通う学校を訪ねると、教頭先生が取材に応じてくれた。
筆算の線を引くのに定規を使うことは、何年も前から学校として統一したうえで指導しているといい、教育現場では「一般的」という。定規を使っていなくても、テストで減点することはないが、指導を徹底している3、4年生の宿題などでは「指導対象」となるという。
教頭先生は前提として、「高学年になるまでは、まっすぐ線を引くのが簡単にできる子とできない子がいる」と説明したうえで、「集団で過ごす中で、特定の子だけ定規を使わせる、使わなくてもよい、といった指示は現実的ではない」と話す。
拡大する宿題の筆算の線を定規で引く記者の娘。「定規の背を使って」と指導されているという
教頭「公教育、一定のルールの中で」
そもそも、そんなにまっすぐ線を引く必要があるのか。
この疑問については「視覚的に汚いと桁がずれることがある」。ある程度きれいに線が引けて計算ミスをしない子には定規が必須とはいえないことは認めつつ、「公教育なので、一定のルールの中で勉強をしてもらうことが必要になります」と理解を求めた。
また、私見として「計算のスピードを求める中で定規を使用することは、その目的に逆行していると思いますが、桁がずれにくいという以外にも、学習規律や指先の器用さなどを高めることにつながっていると思います」と意義を語った。
娘は「面倒だけど慣れた」と話し、提出物のみ定規を使っているという。同級生の多くも「そういうもんだ」と気にしてはいないようだ。
いつから、こんな指導がスタンダードになったのか。教頭先生に聞いてみたが、それはわからなかった。
「広めたの私かも」推奨した人は…
拡大する「筆算の線を定規で引いた方がケアレスミスは減る」と話す向山洋一さん
ルーツを探ると、教育関連の著書を多く出し、再現可能な指導法として「向山式」を広めた教育者で日本教育技術学会長の向山洋一さん(76)が、10年以上前の著書で、定規を使うことを推奨していた。
向山さんに聞くと、「定規を使う指導をしている人はそれまでにもたくさんいたと思うが、(本などで)広めたのは私かもしれない」という。
定規を使うと、位(くらい)がそろって計算間違えが減るのだという。なぜ、横の線を引くと、縦の位がそろうのか。
「理由はわかりませんが、きれいに書こうという意識が強まり、適当さが減るからではないでしょうか」と向山さん。「エビデンス(根拠)があるわけではなく、経験則でしかないのですが、だいたい2割ぐらいの子がこれで計算ミスが減り、点数が伸びる」そうだ。
ただ、定規を使わないことを理由に誤答にしたりやり直しさせたりする指導が少なからずあることについては「明らかにやりすぎ」と話す。
「子どもを否定してはいけない。そんなことでバツにされたらやる気がなくなってしまう」「やった方がいいというぐらいの話で、やらない子はダメというわけではない」
一方で、10センチぐらいのミニ定規を使うことは推奨する。「慣れれば、すばやくプラスやマイナスも定規を使って書けるようになるし、きれいに書く子は将来的に伸びやすい」と持論を展開し、教師が定規を使ってもらいたいと思うことにも、強く理解を示した。
- 数学者・文科省の見解は…
- 定規を使う方が将来的に伸びるというならば、数学者たちは使っているのでしょうか。日本数学会の理事長に直撃したほか、文科省にも指導方法に対する見解を聞きました。
■数学者たちはどうし…
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Source : 社会 – 朝日新聞デジタル