パンクする保健所の昼ごはん、夕方5時の「早弁」 「先進県」ですら

 新型コロナウイルス対応で、和歌山県は保健所や病院と協力し、症状によらない全員入院などの「和歌山方式」で感染拡大を抑えてきた。ワクチン接種率では昨年春、全国1位に。しかし、その「先進県」の保健所ですら、オミクロン株による感染拡大で、逼迫(ひっぱく)している。記者が見た職員の「お昼ごはん」は、業務とともに夜まで続くものだった。 和歌山市吹上5丁目の坂道にある同市保健所。記者が取材したのは1月26日。県が全員入院をあきらめ、まん延防止等重点措置の適用を国と協議し始める前日だった。 廊下には、遺体搬送袋、サージカルマスク、手袋などの備品が入った段ボール箱が積まれていた。その隙間に、座りこんで昼食をとっている職員がいた。 上野美知部長がコンビニのおにぎりを一口かじったのは午後0時47分。とたんに卓上の電話が鳴り、携帯電話も鳴動がやまない。そばで待っていた職員が頃合いを見て「もう我慢できないとおっしゃっています」と入院調整の相談を持ちかける。上野部長は書類を手にして話し込む。おにぎりの二口目は34分後だった。 これはマシな方かもしれない。ある職員は、弁当のふたを開けたとたんに、検体が施設から届いたというので席を立った。一口目は1時間後の午後1時すぎだった。 これもまたマシな方だろう。別の職員が昼の弁当を食べ終えたのは午後9時半、また別の職員は午後10時15分だった。 「お昼ごはん」を昼に食べることが珍しく、午後5時に食べると「きょうは早弁だね」と言われる職場。コロナの「波」がくるたびに、体重が3キロ落ちる職員もいる。 夜の「お昼ごはん」を食べ終わった後も、仕事は続く。 2人の若い職員が深夜につぶやく。 「ていねいに対応していると次にいけないし、その判断が難しくて……なにもできないむなしさを感じるというのか。がんばってねと言うしかなくて、するとどんどんクラスターが大きくなって」 「陽性者にも入院できないと言わないといけないのが……でも今はすべての人を病院に入れるなんてできないし」 聞いていた先輩職員は「ほんとがんばってください」と言うしかない。 崩れてしまいそうな心身を支えているのは何か。「使命感? わからないけれど、自分がやらないといけないと思っているので」「とりあえず『波』が収まってほしい」 オミクロン株によってクラスターなど感染拡大の続く「第6波」。その収束を願い、保健所職員はひたすらこらえていた。(下地毅)Source : 社会 - 朝日新聞デジタル

学級閉鎖で給食の廃棄が増加 「どうしようもないが、もったいない」

 新型コロナウイルスに感染する児童生徒の急増で小中学校の学級や学年の閉鎖が相次ぎ、牛乳など学校給食の廃棄量が増えている。 一斉休校となった昨年春と異なり、登校する児童生徒はいるので給食を続けているが、食材納品や調理の都合で、当日や前日になってからでは提供量の調整ができず、閉鎖になった学級や学年分が残るためだ。 埼玉県内の約8割にあたる約1千校分のパンまたはご飯を製造、配送する県学校給食パン・米飯協同組合(さいたま市)には1月中旬以降、毎日、多数のキャンセルが入るようになった。 注文をもとに毎月初めに日々の生産量を計画しており、材料調達や生産工程の都合でパンは前々日午前中、ご飯で前日昼までのキャンセルなら製造量を減らせるが、それより遅れると計画分を作らざるを得ない。 パンで一日平均約8万食を各地の給食センターや学校へ配送するが、キャンセルは多い日で3千食近くに上り、調整が間に合わず廃棄せざるを得ないのは1200食ほどになることも。「作り手としては悲しい」 担当者は「毎日、学級閉鎖や…この記事は有料会員記事です。残り765文字有料会員になると続きをお読みいただけます。Source : 社会 - 朝日新聞デジタル

極夜に太陽、見えないはずの輝き、蜃気楼で水平線上に浮き上がる

 水平線の上にかすかにオレンジ色の光が見える。2020年7月5日午後0時14分、気温は零下29度、1カ月半続く極夜が明けるまで、あと10日。まだ太陽が見えるはずはないのに……。太陽の蜃気楼(しんきろう)だ! 南極では蜃気楼がよく見える。晴れて冷えた日に、凍った海のはるかかなたに広がる氷山は、浮き上がったり、のびたり、ひっくり返ったり。海氷面近くと、その上の方で、温度が違う大気の層があると、その間で光が曲がって、私たちの目には実際とは異なる像が届く。水平線のすぐ下まで迫った太陽も、浮き上がって見えたのだ。 原理はわかっていても「極夜の太陽」なんて不思議な気分だ。1カ月以上も陽光がなく、ブリザードに見舞われた日々。ひとときの安らぎの中、かすかな一筋の光さえいとおしい。25日夜、記者サロン「ようこそ!ペンギンワールドへ」「南極から地球がみえる」シリーズ第8回「ようこそ!ペンギンワールドへ」 25日(金)午後8時~ ペンギンがいるのは南極だけ?どんな種類が、どこでどんな生活をしている?写真や映像とともに紹介します。参加無料。申し込みは募集ページ(https://ciy.digital.asahi.com/ciy/11007059)またはQRコードから。 南極には芽吹きの春も紅葉の…この記事は有料会員記事です。残り846文字有料会員になると続きをお読みいただけます。Source : 社会 - 朝日新聞デジタル

「会社法さえ守られれば」中傷被害の泣き寝入り 弁護士が語る問題点

 とにかく時間も手間もお金もかかる――。SNSで誹謗(ひぼう)中傷を受けた人が「被害回復」に向けて裁判手続きを進めようとすると、まず準備段階から様々なハードルが立ちはだかる。 なぜか。そして、改善できないのか。 ツイッターやフェイスブック、インスタグラム、ユーチューブなど、SNSのプラットフォーム企業の多くは米国に本社を置く。動画投稿サイトとして人気のティックトックは中国のバイトダンスが運営している。そこで誹謗中傷や差別などを書かれたり、写真・動画を投稿されたりして受けた被害の回復を進めたければ、米中などの本社を相手取った手続きが必要だ。SNS上の誹謗中傷――。それが「書き込んだ人の問題」であることは疑いがありません。しかし、ネット上の仕組みや法制度、企業のあり方も、被害の回復をより難しくしています。被害者をさらに追い詰めるものは何か。その構造を追いました。記者によるポッドキャストでの解説もお聞きいただけます。裁判に必要な「資格証明書」 そうした裁判で必要になるの…この記事は有料会員記事です。残り1722文字有料会員になると続きをお読みいただけます。Source : 社会 - 朝日新聞デジタル

銅線1千メートル、太陽光発電施設から盗難 1300万円相当

斎藤徹2022年2月9日 8時46分 福島県警二本松署は7日、市内の太陽光発電施設から全長約1千メートルの銅線が盗まれたと発表した。窃盗事件として調べている。県内外の太陽光発電施設では、大量の銅線が盗まれる事件が相次いでおり、県警は警戒を呼びかけている。 署によると、銅線は合計で重さ約10トンで、1300万円相当。送電用ケーブルなどとして太陽光発電施設内に配備されていた。 7日午前8時半ごろ、発電施設を訪れた関係者が、施設内が荒らされているのに気づき通報した。今月1日昼以降、複数人による犯行とみられる。現場はフェンスで囲まれていたという。 県内では1月末に白河市内の太陽光発電施設で全長約2400メートルの銅線(約1200万円相当)が盗まれているのがわかり、県警は関連も含め調べている。(斎藤徹)Source : 社会 - 朝日新聞デジタル

当時中3を児童買春の疑い、町の係長を逮捕 福岡・岡垣

布田一樹2022年2月9日 8時57分 福岡県警中央署は8日、岡垣町職員の平田一彦容疑者(39)=同町公園通り2丁目=を児童買春・児童ポルノ禁止法違反(児童買春)の疑いで逮捕し、発表した。「間違いありません」と容疑を認めている。 署によると、平田容疑者は昨年3月22日午前10時半ごろ、北九州市八幡西区樋口町のホテルで、SNSで知り合った同区の高校1年(事件当時は中学3年)の少女が18歳未満と知りながら、現金2万円を渡す約束をしてわいせつな行為をした疑いがある。 町によると、平田容疑者は産業振興課の係長。門司晋町長は「大変遺憾。事実関係が明らかになった際には、厳正かつ適正に対処するとともに、服務規律の確保について重ねて徹底し、信頼回復に努めてまいります」とコメントを出した。(布田一樹)Source : 社会 - 朝日新聞デジタル

スノボの大技「カナディアンベーコン」の誕生 私はそこにいた

 ジャンプしながらスノーボード(スノボ)をつかむ技は、食べものの名前が多い――。北京冬季五輪スノーボードスロープスタイルのテレビ中継で解説者が放った一言が気になった。本当か? 日本スノーボード協会の石原繁国際委員長(57)に聞くと、「本当です」。 石原さんは1980年代のある夏、「カナディアンベーコン」が誕生した瞬間に居合わせた。 万年雪があるカナダのスキー場に集まり、より難度の高いボードのつかみ方(グラブ)を競い合っていた。米国人コーチが朝、カナディアンベーコンを食べながら言った。 「毎日毎日、この朝食は飽き…この記事は有料会員記事です。残り1150文字有料会員になると続きをお読みいただけます。Source : 社会 - 朝日新聞デジタル

「除雪が積雪増に追いつかず」 JR北幹部が語る運休原因 札幌大雪

 JR北海道は8日夜、札幌―小樽間の運行を再開。ただ、新千歳空港への足となる札幌―新千歳空港間は8日中の再開はできなかった。9日の再開に向けて除雪作業を進めている。 その他の札幌発着の路線は再開のめどが立っていない。9日夜の再開に向け作業を行っているという。いずれの路線も再開できても大幅な間引き運転になるという。 8日午後7時過ぎ、札幌駅の改札口では約50人が再開を待っていた。発寒へ帰るという札幌市内の会社員男性(49)は「地下鉄の代替輸送手続きに来て再開を知った。通勤でJRを使ってきたが何日も運休するのは初めてだと思う」と話した。 午後7時17分ごろに改札が開くと、人々は一斉にホームへ向かっていた。真っ暗だった電光掲示板には「臨時」という文字が表示された。 一方、北広島に向かう会社員女性(30)は、千歳方面の運休が続いているのを知った。「夜には動くと思って来て見たが、まだダメなんですね」と話した。 JR北は6日の大雪を受け、7日に札幌発着の全列車を運休。8日も始発から運休し、夜に一部を再開したが、運休は計707本と、全運休した7日(728本)と同規模となった。 JR北は8日午後の会見で除雪の現状について説明。線路や駅周辺の除雪や、止まったままの車両の移動など、運行再開のための最低限の作業が完了に近づいているとした。 なぜ除雪にここまで時間がかかったのか。 会見では、6日の大雪についての事前想定やその後の対応についての質問が相次いだ。JR北によると、全面運休するほどの降雪を示す予報はなく、当初は列車の本数を減らす間引き運転で対応できると判断していたという。しかし、「間引き運転で(線路上の積雪をしのいで)対応できると考えていたが、積雪量の増加に追いつかなかった」(JR北の宮越宏幸・鉄道事業本部長)という。 宮越本部長によると、運行計…Source : 社会 - 朝日新聞デジタル

内密出産、熊本市が慈恵病院に協力へ 「女性の現状重視」で方針転換

 熊本市の慈恵病院が独自に取り組む「内密出産」について、市は、今後は病院と協力して母子支援の対応をする方針を固めた。やむなく内密出産を選ぶ母親がいる現実を受けて、両者は近く情報共有や話し合いの場を設け、内密出産で生まれた赤ちゃんの養育などの課題について検討を進める。 市はこれまで「内密出産は法に触れる可能性がある」などとして、病院側に控えるよう求めてきた。一方、病院が、昨年12月に生まれた赤ちゃんについて、母親の名前を記さずに出生届を出す国内初の内密出産に踏み切る意向を今月4日に表明したことなどを踏まえ、子どもの権利擁護などの観点から従来の方針を転換した。 複数の関係者によると、市は内密出産を選択せざるを得ない女性がいる現状を重視。現行法の枠組みの中で現実的な対応を探る必要があると判断した。内密出産には法的な課題があるが、母子の命に関わる孤立出産を防ぎ安全に出産できる側面を認め、病院と情報共有や話し合いの場を持つことで8日までに双方が合意したという。 慈恵病院はこれまでの会見で、内密出産で生まれた赤ちゃんの養育や、病院が保管する出自に関する情報の取り扱いなどについて行政との協議を求めてきた。両者はそうした課題や、母親のケアのあり方について検討する見込み。市は同時に、内密出産について必要な法整備を国や国会議員に働きかけていく方針だ。病院への相談 今回のケース以外にも 慈恵病院が導入している内密…この記事は有料会員記事です。残り347文字有料会員になると続きをお読みいただけます。Source : 社会 - 朝日新聞デジタル

逃げてもいい、その意思の先にある新しい私との出会い 現代の逃走論

有料会員記事聞き手・刀祢館正明 聞き手・田中聡子 聞き手 編集委員・塩倉裕2022年2月9日 5時00分 コロナ禍の閉塞(へいそく)感のなかで、現実から「逃げたい」と思うこともままある。だが、ネット上の情報を消すことも難しい時代、逃げることは可能なのか。2022年の「逃走論」を考えたい。ここではない、どこかへ行く意思 ヨシダナギさん(フォトグラファー) ずっと逃げてきた結果、現在の私があると思っています。 まず、中学2年で学校から逃げました。不登校になったんです。きっかけは両親の離婚でした。それまで家で絶対的な存在だった母親が出て行き、自分の意思で行動できるようになったんです。その時思ったのは、私の人生に学校はさほど役に立つことはないだろうな、自分に不向きなところに行くのはもう終わりにしよう、と。集団行動が苦手で、みんなと同じことが出来ない子だったのです。 学校からは「定期テストに名前だけ書いたらなんとかする」と言ってもらえたので、保健室登校して、なんとか中学校は卒業出来ました。 その後は、スカウトされてグラビアアイドルに。でも集団行動の苦手な私には、限界がありました。「ずっと逃げてきた」と話すヨシダナギさんは、今の自分に何を感じているのでしょうか。2004年のイラク人質事件で「自己責任」とのバッシングを受けた今井紀明さん、1980年代のニュー・アカデミズムの旗手として「構造と力」や「逃走論」の著書のある浅田彰さんも、記事後半でそれぞれの逃走論を語ります。 そこで、今度は得意だった絵…この記事は有料会員記事です。残り3240文字有料会員になると続きをお読みいただけます。Source : 社会 - 朝日新聞デジタル