光野錦松さん(70)は「鬼」をつくる職人だ。だから「鬼師」を名乗る。 愛媛県今治市菊間町の伝統工芸、菊間瓦は独特の「いぶし銀」で知られる。 菊間で江戸時代から200年以上続く窯元の家に生まれた。代々、鬼瓦をつくるのを本業としてきた窯元「錦松工房」を営む。 2022年も、翌年のえと「卯(うさぎ)」の置物を瓦粘土で作った。師走に入り、顔なじみの客らが買い求めていく。 いま、鬼瓦を作る機会はほとんどない。仕事の9割は置物などの工芸品。「鬼」を作らない鬼師となって久しい。 ところが、頼みの綱の置物の需要も先細っている。後継者はいない。工房の鬼師は、9代目の自分で絶える。 光野さんは大学を卒業し、東… この記事は有料記事です。残り1623文字有料会員になると続きをお読みいただけます。 Source : 社会 – 朝日新聞デジタル
「30年の約束」を国は守るか 除染土が残れば、ふるさとは遠のく
福島の復興のため、30年間の我慢だ――。 門馬好春(65)は白い防護服をまとって大熊町の実家に立ち寄るたび、自分にそう言い聞かせてきた。 生まれ育った木造平屋の実家は、東京電力福島第一原発の敷地境界から内陸に100メートルほど。いまも中間貯蔵施設の敷地内に残っている。周辺には原発事故後、福島県内を除染して出た土などが入った黒いフレコンバッグが積み上がっていった。 福島県内各地から運び込まれた汚染土に埋まっていくふるさと。それでも、汚染土は搬入開始から30年以内に福島県外で最終処分される約束のはずだ。 中間貯蔵施設内に土地を持つ門馬らは地権者会を結成し、県外処分の実現などに向けて、説明会で意見したり、用地契約の団体交渉にあたったりしてきた。 門馬は3人きょうだいの末っ子だった。 幼いころは沼でドジョウを捕まえ、山でとったハツタケ入りのごはんが好物だった。 夏は家族で畑の葉タバコをとって干し、秋はコメを収穫する。冬になると、父は東京に出稼ぎに行った。 お金はあまりなかったが、「ひもじい思いはしなかった」。豊かな自然が当たり前にある。それが、ふるさとだった。 ふるさとの景色が変わった そんな景色は、門馬が10歳… Source : 社会 – 朝日新聞デジタル
アベマのW杯生中継 2千万の同時視聴を支えたエンジニアの熱き闘い
有料記事 聞き手・松田果穂2022年12月30日 15時30分 アルゼンチンが36年ぶり3度目の優勝を果たしたサッカー・ワールドカップ(W杯)カタール大会。 インターネット放送局「ABEMA」(アベマ)は、サッカー史に刻まれることになった大会全64試合を無料で生中継した。PK戦にもつれ込んだ日本―クロアチアの試合では一時2300万人以上が視聴するなどアクセスが集中した。そんな状況でも映像をスムーズに届けた舞台裏では、どんな闘いが繰り広げられていたとみられるのか。コンピューターネットワークに詳しい東京大情報理工学教育研究センターの関谷勇司教授に聞いた。 2千万人が同時視聴 「とんでもないこと」 ――アベマのクロアチア戦生配信、どう見ましたか。 テレビでも視聴率が20%を超えることは今時ほとんどない中で、日本の人口の約2割が見ていたことになりますね。それだけインターネットの動画配信がメジャーになってきたということだと思います。しかも、あれだけの規模の配信を支えるには、それなりの技術も必要です。外から見ていたエンジニアの同業者たちは、選手たちの奮闘と同じくらい、これはこれで熱い闘いとして見守ったことと思います。 ――今回の配信を支えた技術は、どれくらいすごいものなのでしょうか。 日本だけで2千万人以上が同時に配信を見ている状況はとんでもないことで、おそらく初めてのことです。世界規模で見ても例がない。トラブルなく配信するためには、お金も技術も必要です。それをできる自信が、今回のアベマにはあったのでしょう。エンジニアたちの努力のたまものでもあったと思います。 ――そもそも、従来のテレビ… この記事は有料記事です。残り2175文字有料会員になると続きをお読みいただけます。 Source : 社会 – 朝日新聞デジタル
ロボットやAIは「社会の鏡」 エリカの愛想笑いが映し出したものは
人が笑うと、返事をしながら笑い返してくれる――。そんな会話ロボットを、京都大の研究グループが開発した。ロボットは人が動かす道具ではなく、自ら動いて人に寄り添う存在になるかもしれない。 同大大学院の情報学研究科には、女性の姿をしたアンドロイド(人型ロボット)「ERICA(エリカ)」がいる。9月下旬、研究を担う井上昂治助教がエリカと向かい合い、「以前から行きたいと思っていたお店にずっと並んでいたら、実はオープンが次の日でした。ははは」と話しかけると、エリカは「そうなんですね、ふふふ」と愛想笑いで返事をした。 うなずきながら相づちをうつ様子は、機械にしては自然に映るが、返事はどこかそっけない。なぜなら、エリカは人が話す内容を理解して返事をしているのではなく、あくまで相手の笑い声に反応して笑っているだけだからだ。 それでも、台本のせりふのように笑う従来のロボットとは異なり、相手に合わせて笑うロボットの開発は世界でも類を見ない試みだった。 笑うエリカは英BBCなど海外のメディアで次々に取り上げられ、河原達也教授は「機械をツールとして捉える海外の人には、ロボットが笑うというのは最先端だったのだろう」と反響に驚いた。 ◇ エリカは、人間の操作を受けず、「自律的に人と対話ができるロボット」をめざして、アンドロイド研究の第一人者である大阪大の石黒浩教授と、音声認識が専門の京大の河原教授らが2015年に開発した。 ①老若男女問わず対話相手として受け入れやすいのは成人女性、②人は人間よりロボットとの対話の方を好むことがある、といった先行研究を踏まえ、CGで合成した女性の姿でデザインされている。 エリカの「愛想笑い」をめぐってはSNSなどで批判も出ました。こうした問題とどう向き合うべきかも記事の後半では取り上げています。 エリカに搭載された対話用の… Source : 社会 – 朝日新聞デジタル
82歳の母親を殴って殺害した疑い、無職の53歳男を逮捕 大阪府警
2022年12月30日 11時24分 母親を殴って殺害したとして、大阪府警は30日、吹田市岸部北3丁目の無職高島慎太郎容疑者(53)を殺人容疑で逮捕し、発表した。高島容疑者は「母親の顔面を殴った」と供述しているが、殺意は否認しているという。 吹田署によると、高島容疑者は同日午前0時ごろ、自宅で母親の光子さん(82)の顔面を数回殴打して殺害した疑いがある。高島容疑者は酒を飲んでおり、何らかの原因でけんかになったとみられるという。 同署と市東消防署によると、高島容疑者は同日午前0時10分ごろ、「母親が死んでいる」と自ら119番通報。救急隊が駆けつけたが立ち入りを拒まれたため、直後に到着した警察官とともに室内を確認したところ、光子さんが仰向けで倒れていたという。光子さんは心肺停止の状態で、搬送先の病院で間もなく死亡が確認された。 有料会員になると会員限定の有料記事もお読みいただけます。 Source : 社会 – 朝日新聞デジタル
「電柱か何かにぶつかったと」 4人死傷のひき逃げ、容疑者を送検
2022年12月30日 11時39分 堺市中区の市道で町内会の夜間パトロール中の男性4人が車にはねられ死傷したひき逃げ事件で、大阪府警は30日、車を運転していた同区小阪西町の建設作業員、猪木康之容疑者(49)を自動車運転死傷処罰法違反(過失運転致死傷)と道路交通法違反(ひき逃げ)の疑いで大阪地検に送検した。猪木容疑者は「電柱か何かにぶつかったと思った。人をはねたという認識はなかった」と容疑を一部否認しているという。 中堺署によると、猪木容疑者は27日午後11時55分ごろ、同区小阪の市道で乗用車を運転中、道路脇を歩いていた大阪市職員の山中正規さん(46)と内装業の村上伸治さん(47)を後ろからはねて死亡させ、別の男性2人にも軽傷を負わせて逃げた疑いがある。 当時、計8人で年末のパトロール中だった。同署によると、8人のうち前方の4人は縦1列、後方の4人は縦2列に並び、死亡した2人は後方に、けがした2人は前方の先頭を歩いていたとみられるという。 有料会員になると会員限定の有料記事もお読みいただけます。 Source : 社会 – 朝日新聞デジタル
サザンがいて、サザンで知り合った仲間がいた 息子を失った涙の先に
金曜の夜、仕事が済んだあとにファン仲間6人で最終便のフライトで羽田へ。東京や埼玉のファンと待ち合わせてライブ会場の浜松市の浜名湖までレンタカーを飛ばした。 サザンオールスターズも出演した野外フェスを楽しんだあとは神奈川県茅ケ崎市、鎌倉市、そして東京でサザンゆかりのラーメン店やパン屋、海岸を巡った。夜は飲み会。 札幌市の女性(55)の最高の思い出は、2006年にファン仲間と出かけた「ライブツアー」だ。 予定をぎちぎちに詰め込んだ3泊4日。どこでもサザンの話で盛り上がった。 仲間とは、ファン同士の交流サイトで知り合った。まだ小さかった長女と長男も一緒にキャンプや動物園に繰り出し、家族ぐるみで絆を深めた。人なつこい長男はいつも輪の真ん中にいて、みんなから可愛がられた。 楽しかった日々は13年3月、警察からの連絡で一変した。 吹奏楽に打ち込んでいた息子が突然… 長男が地下鉄に飛び込んで亡… この記事は有料記事です。残り1482文字有料会員になると続きをお読みいただけます。 Source : 社会 – 朝日新聞デジタル
ワンオペ育児で生じた夫婦の溝 トヨタ式カイゼンで見えた互いの時間
毎晩帰宅するたび、ぐちゃぐちゃに散らかったリビングが目に入り、思わずため息が漏れた。 約2年前、大阪府の女性(31)は掃除に手がつかないほど心が疲れ切っていた。 小学校の教員をしていた。 午前7時、保育園が開園すると同時に長男(5)を預けて出勤。45分後、今度は自分が登校してくる児童を迎え入れる。 クラス担任の仕事に一日中追われた後、子どものお迎えに行き、午後7時前に帰宅するころにはへとへとだった。 料理は、週末にまとめて作り置きした物を出した。「栄養とか見栄えは二の次でした」 システムエンジニアの夫(40)は夜勤があり、深夜や明け方に帰宅することが多い。不規則な勤務の疲れのあまり、帰ってすぐに寝てしまうことも珍しくない。 料理や掃除といった家事の分担は頼れないとあきらめ、ワンオペで家事育児と仕事をこなし続けた。 自分自身に、分担について話し合う時間と気持ちの余裕もなかった。 勤務があわないため、夫婦で一緒にいられる時間は1週間でわずかしかない。 でも、顔を合わせれば、「なんでやってくれへんの。こっちのしんどさを分かってよ」と、日頃のうっぷんをぶつけてしまう。 顔をあわせないときも、家事で不満に感じていることを長文にしたためてLINEで送った。 それが「既読スルー」される。 一方、夫にも不満はあった。 夜勤シフトで疲れ果てて帰ってくると、キッチンに洗い物が残っている時がよくあった。眠いのをこらえて食器を洗い、「終わらせておいてよ……」と感じていた。 女性は長女(2)の出産にあわせて教員を辞めた。ただ、生計を考えると共働きする必要があるため、特別支援学校の講師として働き始めた。 夫婦は家事をめぐってすれ違い、このままでは家庭が回らなくなることは目に見えていた。 悩んでいた女性が頼ったのは、「時間の片付け」という考え方でした。どういう方法なのでしょう。記事後半で紹介します。 1分で埋まる100人の予約枠 女性の願いは一つだった… Source : 社会 – 朝日新聞デジタル
歩道に高齢ドライバーの車が進入 窓の外からハンドル握り事故防ぐ
車で歩道に進入した80代男性の運転を止め、事故を防いだとして、福島県警南相馬署は21日、南相馬市の元タクシー運転手、高野栄さん(72)に感謝状を贈った。当時思い浮かべたのは、東京と福島市で起きた2件の高齢ドライバーによる事故だった。 12日午前10時ごろ、南相馬市原町区旭町2丁目を歩いていた高野さんは、歩道を走行しようとする乗用車を見つけた。前方に車止めがあり、バックランプが何度か点滅。高野さんはすぐに、歩道に間違えて入ったことに気が付いた。 車にはもみじマーク(高齢運転者標識)がついていた。車に駆け寄り、運転手の男性に声を掛けた。「病院に行かねば」という男性に対し、高野さんは窓の外からハンドルを握り、「アクセルを踏むなよ」と声を張り上げながら、車を安全な場所まで誘導した。その後、近くの通行人に110番通報してもらった。 高野さんは昨年まで約30年、東京都内でタクシーの運転手をしていた。19年には東京・池袋で高齢男性が運転する車が暴走し、母子がはねられて死亡する事故があった。高野さんは「運転手仲間と悲惨な事故だなと話していた」と言う。 先月には、福島市内で97歳男性が運転する車が歩道を時速60キロ超で暴走し、女性をはねて死亡させる事故もあった。高野さんは歩道で車を見つけた時、2件の事故を思い出したという。 署によると、80代男性は事故当日に免許を返納したという。高野さんは「地方では買い物や病院に行くには車が不可欠。高齢者が安心して運転できる車の開発や運転しなくてすむ社会が実現してほしい」と話す。 同署の菊池一志署長は高野さんの行動について「車が歩道を暴走し、大事故が起きた可能性があった。高齢者の事故を未然に防ぐ的確な対応だ」と話した。 県警は加齢や病気で運転に不安のある運転手や家族を対象にした相談ダイヤル「#8080」を設け、利用を呼びかけている。(滝口信之) Source : 社会 – 朝日新聞デジタル
「東京五輪までに美しい福島を」 中間貯蔵の交付金、積み増しの裏側
中間貯蔵施設の受け入れをめぐり、2014年6月16日、環境相の石原伸晃が福島の怒りを買う。「最後は金目でしょ」と発言したのだ。 前日、政府は建設候補地となっている福島県大熊、双葉両町の住民説明会を終えたばかりだった。石原は16日夕に急きょ、記者を集めてこう釈明している。「住民説明会ではお金(補償)の話が多く出た。最後はお金の話だが、それは今は(金額を)お示しすることができないという意味で話した。お金で解決するとは一度も言ったことはないし、解決できる話ではない」 だが、それでは到底、収まらなかった。福島県をはじめ、地元自治体、住民は一斉に反発。石原はその後、謝罪に追い込まれた。中間貯蔵施設の設置交渉は難しさを増していた。 政府は翌月末、中間貯蔵施設の受け入れにあたり、県と大熊、双葉両町に合わせて1500億円の交付金を提示する。直前に示した1千億円から積み増すことで、決着をはかった。 だが、これに対し、県と2町はさらなる増額を要求。隔たりは大きかった。 「大島さんが財務省に『やれ』と」 交渉が停滞する中、政府と県側がともに泣きついたのが、当時、自民党復興加速化本部長の大島理森だったと言われている。 青森県八戸市出身。原子力施… Source : 社会 – 朝日新聞デジタル