朝日新聞デジタルの新機能「コメントプラス」が22日、専門的な知見や豊かな視点をもつ「コメンテーター」27人を社外から迎え、本格スタートしました。最新のニュースや話題を伝える記事とあわせ、コメンテーターによる投稿を読むことができる新サービスです。 キャスターでジャーナリストの長野智子さんは、朝日新聞デジタルで始まったコメントプラスに、専門家の一人として参加しています。日々のニュースにどう接すればいいのか。同じネットメディアで同僚として働いた経験もある伊藤大地・朝日新聞デジタル編集長が聞きました。 ――長野さんは、ハフポスト日本版の編集主幹を4月末に退任されました。デジタルとは、どんな風に向き合っていますか。 今、メインの情報発信はネットです。テレビや新聞など従来の報道とデジタルとの一番の違いはやはりスピードですね。ハフポストはとりわけ速い。どのメディアにもないスピード感、それが最高に楽しかったです。 最初にそれを感じたのは編集主幹に就任した直後の2014年2月。山梨県の大豪雪で大きな被害が出たときです。ハフポストはSNSで孤立集落の被災者の声をまとめ、いち早く状況を伝えました。 ところが私が担当するテレビの生放送では記者が現地にたどり着けず、予定通り、ソチ五輪の報道を続けるしかなかった。テレビではその後、取材対象を広げたり、問題を掘り下げたりして展開しました。どちらが良いかではなく、両方大事だと思っています。 この春からは初めてジャーナリストの肩書で取材していますが、国連UNHCR協会(国連難民高等弁務官事務所を支える日本の支援窓口)の報道ディレクターとしても活動しています。先日、国際オリンピック委員会(IOC)から、29人の難民選手団が発表されました。日本の方に難民への理解を深めてもらうイベントを開催したり、来日する選手の紹介や報道を支援したりしています。 ――普段、SNSはどう活用していますか。 国連の人道支援や難民という重いテーマはなかなか届きにくい。視聴率を重視するテレビではなかなか扱ってくれません。私たちは難民、特に子どもたちの命を少しでも多く助けたい。それにはまず個々の人に難民の状況を知ってもらう必要があります。 国レベルの支援も大切ですが、一人一人が100円を出すのも血の通った大切な支援。若い世代に伝えるため、SNSは強い味方になる。私がケニアやヨルダンの難民キャンプに行ったときには、ツイッターやフェイスブックで動画を発信しました。難民支援の音楽イベントや映画祭は広く拡散され、大勢の人が集まりました。 ――ハフポストでご一緒したとき、長野さんは世界の中の日本という視点やマイノリティー問題を扱う「軸」を打ち出されました。先見の明があると感じました。 シリアなどで何が起きているのか、世界の関心事が日本では報じられないというようなことが頻繁に起きていたんです。日本は国内視聴者の関心に偏りがちです。全世界に展開するハフポストの強みを生かせば、ニーズは必ずあると確信していました。 ――トランプ氏の支持者らが連邦議会議事堂を襲撃した事件のように、ネットの議論があらぬ方向に行く事態も起きています。私たちはどう対処すべきでしょうか。 SNSの性質上、こうなるだろうと思っていました。今はジャーナリズムを学んでいない人が発信する時代。約20年前までは専門性や取材能力をもった「職人」による報道でした。私はそれに憧れて勉強しましたが、誰でもネットで発信できるならスキルは何一つ必要ない。 だから事実確認やリテラシーのない状況が世界中で生まれていますよね。情報過多の中で、受け手も真実より自分が心地よい情報を求めていく。 ただ、こんな時代だからジャーナリストが変わるべきだとは思いません。私は報道の世界で身につけたやり方を貫きたい。 出所不明のニュースやデマが出回ったとき、「この問題に関して、長野智子っていう人は何を書いているのかな」と、読者の参考になる記者の一人になれたらうれしいと思います。 あとは専門性のある報道人や研究者が協力して、第三者機関をつくるのも一案です。データや事実関係を整理・検証する試みが日本にもあるといい。 ――水が無料で飲めるようにニュースもタダで読める今、有料記事に価値を感じてもらうにはどうすべきか。ミネラルウォーターには製造工程や成分が書かれていますよね。新聞社も、これまで伝えてこなかった取材手法や記事化の過程について、丁寧な説明が必要なのだろうと感じます。 昔は○○新聞といった会社の名前で信用されましたが、今は一人一人の記者の信頼性や日々の発信内容も大事。一人一人の記者の熱量や力量が、今ほど試される時代はないですね。 ――国際問題や難民問題、大事だけど読まれにくいテーマにどうすれば関心を持ってもらえるか、ずっと考えています。どんな工夫をされてきましたか。 一生懸命報じても伝わらないこと、多いですよね。私にとっても女性の国会議員が増えない問題がそうです。日本は世界経済フォーラムの「ジェンダーギャップ指数」が毎年120位前後。長年伝え続けてきたのに全く変わらず、ずっと不満でした。 それでやり方を変えてみたのが、5月に自ら立ち上げた超党派の女性議員による「クオータ制実現に向けての勉強会」です。ジャーナリストの田原総一朗さんに座長を頼み、私が事務局長で月1回開いています。クオータ制が進まない障壁は何か。外からだけでなく、中に入って伝えようと思ったんです。 ――最後に。ご参加いただく朝デジの新機能「コメントプラス」への期待と意気込みを教えてください。 コメントプラスは有料会員向けのサービスですよね。最近だと、朝日新聞の特報がきっかけでネットでも話題になった平井卓也デジタル改革相の「脅し」発言問題。日ごろ取材している記者が「普段の平井大臣はこんな話し方をする人だとか、こういう考えの持ち主だ」という情報をコメントしてくれるといい。 記事の理解に役立つ知識や背景、追加情報を付け加えてほしい。コメントプラスにはそんな役割を期待します。 コメントプラスではツイッターで書くような記事の感想にとどまらず、別の角度からニュースを見られるような、自分の実体験や取材体験を書こうと思います。 私自身、取材した中で発信しきれないことがいっぱいある。例えば、クオータ制勉強会の裏話を有料会員限定で書いてみるとか。読んだ方が一つ二つ得したと思える情報を書き込みたいと思います。 ――すごく楽しみです。本の後ろにある解説のような、中身の見方を変える、広い読み方ができるようなサービスにしたいと考えています。積極的な発信をどうぞよろしくお願いします。(聞き手・伊藤大地) ◇ ながの・ともこ 米ニュージャージー州生まれ。1985年に上智大学卒業後、アナウンサーとしてフジテレビに入社。その後フリーに。99年ニューヨーク大学大学院修士課程を修了。2000年にテレビ朝日系「ザ・スクープ」のキャスターに起用され帰国。「朝まで生テレビ!」「報道ステーション」などを経て、現在はジャーナリストとして活動する傍ら国連UNHCR協会の報道ディレクターも務める。 ◇ いとう・だいち 1978年、神奈川県生まれ。2001年にインプレスに入社し、記者として携帯電話業界やネット業界を取材。13年からハフポスト日本版でデータを用いた報道に携わり、BuzzFeed Japan副編集長や同Entertainment編集長を務めた。20年11月に朝日新聞に入社。21年4月から朝日新聞デジタル編集長。 Source : 社会 – 朝日新聞デジタル
ドローンが東京湾50キロを縦断 「空のハイウェー」に
東京湾を「空のドローンハイウェー」に――。ドローンで東京湾を縦断し、横浜市から千葉市まで荷物を運ぶ実験が21日にあった。操縦者が機体を視認できない目視外飛行で、50キロほどの距離を約1時間半で「完走」した。国は2022年度から有人地帯でのドローン目視外飛行を実現させたい考えで、ドローンによる新たな物流ルートづくりが期待される。 この実験は、ドローン産業の育成などに取り組む「先端ロボティクス財団」(東京)が国土交通省の補助事業で行った。たこ状の翼がついた「カイトプレーン」(全長約2・3メートル、幅約2・8メートル)というドローンが使われ、ガソリンを燃料に、歯科治療で使われる人工の歯を運んだ。 午前8時40分ごろに横浜市… この記事は会員記事です。無料会員になると月5本までお読みいただけます。 残り:560文字/全文:875文字 Source : 社会 – 朝日新聞デジタル
JAL従業員が野菜の出荷作業 乗客減って異業種に参戦
戸田拓2021年6月22日 17時30分 【動画】JALグランドサービス札幌社員がブロッコリー出荷=戸田拓撮影 北海道の新千歳空港で荷物などの運搬業務を担当するJALグランドサービス札幌の社員が21日、JAながぬま(北海道長沼町)で旬のブロッコリーの出荷作業をした。 新型コロナウイルスの流行で旅客便が減便・運休されたことに伴い、日本航空グループは道内でも社員の企業や官庁への在籍出向を進めている。 この日は航空機への荷物、貨物の積み下ろしを担当している30~40代の男性社員7人が、発泡スチロール箱に詰め込まれたブロッコリーに鮮度を保つための氷をかぶせる作業などに取り組んだ。 手荷物係長の千葉雅亮さん(43)は「ほかの仕事を経験できるのはとても貴重。狭い空間でフォークリフトに注意しながら作業するのは同じだが、野菜の選別をロボットが行うなど、農業の現場は空港よりIT化が進んでいた」と話していた。JAながぬまへの出向は、人を入れ替えながら10月末まで続く。(戸田拓) Source : 社会 – 朝日新聞デジタル
息子奪った9・11テロ「なぜ?」 父は報告書に挑んだ
約3千人の死者を出した米同時多発テロから9月で20年になる。事件で長男を亡くした日本人男性が米国の「9・11調査委員会報告書」の翻訳、出版に取り組んでいる。「誰が、なぜ?」。真実を知りたいという思いに突き動され、500ページを超える大著を10年がかりで翻訳した。 男性は東京都目黒区の住山一貞さん(84)。事件で長男の杉山陽一さん(当時34)を亡くした。陽一さんは、ニューヨークの世界貿易センタービルにあった富士銀行(現みずほ銀行)の支店に勤めていた。 住山さんは事件の2カ月前、赴任したばかりの陽一さんを訪ねた。7月4日の独立記念日には、世界貿易センタービルの屋上から、「自由の女神」をかなたに眺め、家族で写真を撮った。それが最後になった。 現場から見つかった小さなかけらがDNA鑑定で陽一さんのものとわかった。検視官は「それ以外は蒸発した」。空気のどこかに漂っているように感じ、コロナ禍の昨年を除き、住山さんは毎年9月に現地を訪れてきた。 2004年の訪問の帰途、空港の売店で、米議会の超党派による独立調査委員会の報告書を見つけ、購入した。全567ページ。拾い読みを試みて、一度は挫折した。日本でも08年に抄訳が刊行されたが、事件の背景が省かれていた。同じころ、「テロは米国の自作自演」との陰謀論が広がり、国会でも報告書を疑問視する意見があったのをきっかけに、「信頼できる日本語の資料が必要だ」と一念発起した。 1日3ページ、解説も執筆 定年前は金属会社に勤め、英… この記事は会員記事です。無料会員になると月5本までお読みいただけます。 残り:900文字/全文:1541文字 Source : 社会 – 朝日新聞デジタル
ウーバージャパン幹部らを書類送検 不法就労助長の疑い
不法残留していたベトナム人がフードデリバリー大手ウーバーイーツの配達員として働くのを手助けしたとして、警視庁は22日、運営していたウーバージャパン(東京都港区)の幹部2人と、法人としての同社を出入国管理法違反(不法就労助長など)の疑いで書類送検し発表した。運営会社が不法就労に関連した容疑で書類送検されるのは初めてという。 書類送検されたのは、かつてウーバーイーツを運営していたウーバージャパンと代表社員だった女(47)、コンプライアンス担当だった元社員の女(36)。 組織犯罪対策1課によると、元代表社員らは昨年6~8月、在留資格の有無を確認せず、ベトナム国籍の男(30)と女(24)をウーバーイーツの配達員として違法に就労するのを助長した疑いがある。元代表社員は「報告を受けておらず、知らなかった」と容疑を否認、元社員は「外国人の登録に問題があることはわかっていた」と認めているという。 同課によると、都内ではウー… この記事は会員記事です。無料会員になると月5本までお読みいただけます。 残り:146文字/全文:559文字 Source : 社会 – 朝日新聞デジタル
カープ大好きな野球少年だった山県選手 導いたある夫妻
陸上男子100メートルで9秒95の日本新記録を出した山県亮太さん(29)は、広島カープが大好きな野球少年だった。小学4年のとき、ある夫妻との出会いから陸上の道へ。24日からは3大会連続の五輪出場をかけた日本選手権が控えている。夫妻の夢も重なる。 教え子には為末大さんも 2002年春、広島市で開かれた陸上大会で、夫妻は当時小学4年の山県さんの走りを初めて見た。100メートルに出場し、2位に大差をつけて優勝。上半身が上下左右に揺れず、もももしっかり上がっていた。「こんな子はめったにおらん」。前だけを見て、さっそうと走る姿に目を奪われた。 夫妻は、山県さんの地元・広島市で陸上クラブ「広島ジュニアオリンピアクラブ」の顧問を務める日山君代さん(86)と夫の正光さん(故人)。1985年、クラブを立ち上げた。高校教員で陸上部の顧問だった正光さんが会長、中学校の体育教員だった日山さんが副会長を長く務めた。「夢はでっかくオリンピア」を合言葉に、約30年にわたって子どもたちを指導。五輪に3度出場した元陸上選手の為末大さん(43)も「卒業生」だ。 「うちのクラブに入ってもらわないけん」。驚きの走りを目の当たりにした日山さん夫妻は、応援に来ていた山県さんの両親と祖父母を見つけ、名刺を差し出した。ただ、当時の山県さんは広島カープにあこがれる野球少年。「うちの亮太は少年野球に入っているんです」と言われた。 それでも、「練習に来てほしい」と熱心に誘うと、約1週間後、山県さんは父親に連れられてやってきた。当初は少年野球チームと掛け持ちしていたが、間もなく山県さんは「僕、かけっこをする」と宣言。陸上に専念するようになった。 山県少年がいつごろ、どんな風にタイムを縮めていったのか。記事の後半で紹介します。 「腰に付けた大根をすぱっと… この記事は有料会員記事です。有料会員になると続きをお読みいただけます。 残り:768文字/全文:1495文字 Source : 社会 – 朝日新聞デジタル
国が遺族側に「赤木ファイル」を開示 森友公文書改ざん
会員記事 米田優人、森下裕介2021年6月22日 10時24分 学校法人森友学園(大阪市)への国有地売却をめぐる財務省の公文書改ざん問題で、国は、自死した同省近畿財務局職員赤木俊夫さん(当時54)が改ざんの経緯を記したとされる「赤木ファイル」を妻・雅子さん(50)側に開示した。雅子さんの代理人弁護士の事務所に22日、郵送で届いた。 国が開示したファイルは約500ページで、コピー用紙がひもでとじられていた。俊夫さんが、改ざん問題について書き残したとみられる「備忘記録」や、省内でやりとりしたメールの写しなどがあった。中身を確認した雅子さんは「夫の気持ちを考えると、どんなにつらい思いをして残したのだろうと胸がつまる思いだ」と語った。 雅子さんは昨年3月、俊夫さんが自死したのは改ざんを強いられたからだとして、国と佐川宣寿(のぶひさ)元同省理財局長に計約1億1200万円の損害賠償を求め、大阪地裁に提訴した。 雅子さん側は、ファイルの内容が明らかになれば、当時の改ざん指示の流れや俊夫さんが受けた精神的苦痛の立証につながると主張。ファイルの存在を明かした俊夫さんの元上司の音声データを証拠として提出したほか、今年2月、国にファイルの提出を命じるよう大阪地裁に申し立てた。 これに対し国は、財務省内で改ざんが行われたことについては争いがないとし「ファイルは裁判に関係がなく、存否について答える必要がない」と説明。一方で国会では「訴訟に影響する」として、野党側の開示要求に対し、存否についての答弁を避けてきた。 だが、国は今年5月、裁判所の命令を待たずに、任意で提出を検討するよう地裁から要請があったことを受け「真摯(しんし)に対応する」と表明。求められていた文書を特定できたとして、次回の口頭弁論期日(6月23日)には俊夫さんが改ざんの経緯を時系列にまとめた文書や、財務省理財局と近畿財務局の間でやりとりしたメールの記録などを任意で提出すると文書で回答した。また、マスキング処理(黒塗り)は「できる限り狭いもの」とする意向を示していた。(米田優人、森下裕介) ■公文書改ざんと赤木ファイル… この記事は会員記事です。無料会員になると月5本までお読みいただけます。 残り:474文字/全文:1341文字 Source : 社会 – 朝日新聞デジタル
山にポツンとオリ、中にはカラス10羽 駆除担当の苦悩
依光隆明2021年6月22日 10時30分 霧ケ峰のふもと、諏訪市の山中に大きなオリが設置されていた。中に約10羽のカラスがいて、大声をあげて飛び回っている。その下には動物の白骨体。まるで怪奇映画に迷い込んだような、怪しげな雰囲気だ。 上部に侵入口が開いていて、そこからたくさんの金属棒がぶら下がっている。入ることはできるが、出ようとしたら金属棒に邪魔されて出られない、という仕組みらしい。設置者を記したプレートが取り付けられていた。名義は諏訪市長。市農林課の電話番号が書かれている。 「カラスの被害がでていまして、駆除しなければいけないということで設置しました」。市農林課の担当者が説明する。「市で作りました。富士見町にあるのを見に行って。設置して2年になります。エサ? 駆除したシカです」。オリは4メートル四方。高さは3メートルほど。 同課によると、オリに入ったカラスの処分は地元の猟友会に任せているという。昨年の駆除数は他の手段も含めて27羽。同課は「オリを増やしたいとは思うんですが、設置を嫌がる方も多くて……」。場所が見つからず「困ってあそこへ持っていった」と明かす。 同市では山をねぐらにするカラスが朝から夕方まで諏訪湖畔やJR上諏訪駅周辺で飛び回り、フン害に関する市民からの苦情が出ている。猛禽(もうきん)類を使って追い払う作戦なども行ったが、成果は上がっていない。(依光隆明) Source : 社会 – 朝日新聞デジタル
五輪に足りない議論は? 野村修也さんがすすめる観戦法
東京五輪の開幕まで1カ月ほどになりました。これから注意すべきことや、できることは何か。中央大学法科大学院教授で、危機管理に詳しい弁護士でもある野村修也氏に話を聞きました。 開催前提に議論すべきだった ――東京五輪が近づいてきました。 私は半年以上前から、開催を前提にきめ細かに感染リスクの制御方法を議論すべきだという立場をとってきました。 日本側からオリンピック・パラリンピックをキャンセルするのは、契約上きわめて難しいためです。 しかし、開催に反対する声が多く、リスクを議論することそのものがタブー視されてしまいました。 ぎりぎりになって「何も考えていません」というのが一番危ない。まさに今、危険な状況になっている気がしています。 契約への考え、甘い日本人 ――開催を前提に議論すべきだったと考えたのはなぜですか。 国際社会では、契約の順守が厳しく求められます。しかも国際オリンピック委員会(IOC)が長年、各国と結んできた契約は、開催国に不利な仕組みになっていて、そう簡単にはやめられません。 どうしてもやめたいなら、IOCが手にするはずだった放映権料などを開催国が全額負担しなければなりません。戦争がおきるなどよほどのことがない限り逃れられません。 日本人の契約への考えは、どちらかと言うと甘い。「何とでもなるだろう」みたいな感覚があります。 しかし、多様な人々と暮らす国々では、契約が社会の安定をさせているため、いったん結んだ契約から逃れようとすると、社会的信用を大きく損なうことになってしまいます。 だからこそ開催を前提に、どうやって自分たちを守っていくか、真剣に議論をしなければいけなかった。今からでも遅くないので、リスク管理の仕方を議論すべきだと思います。 ■終了後の生活も管理を… Source : 社会 – 朝日新聞デジタル
異例ずくめの土地取引 さらなる疑惑が浮上…でもまさか
【動画】ザ・解説「森友学園公文書改ざん問題」とは 「森友問題」を追う 記者たちが探った真実② 国有地が大幅に値引きして売られた森友学園問題で、朝日新聞が第1報を報じたのは2017年2月9日だった。その後、政府側は国会で野党から追及されていくことになった。 Apple Podcasts や Spotify ではポッドキャストを毎日配信中。音声プレーヤー右上にある「i」の右のボタン(購読)でリンクが表示されます。 国会で政府側として主に答弁に立ったのは、財務省の土地取引担当のトップである佐川宜寿・理財局長(当時)だった。隣の土地の10分の1の価格で売られていた理由についてこう答えた。 「この土地にはごみがたくさん埋まっていて、その撤去費用にお金がかかる」 「もともと鑑定価格は9億5600万円だったが、ごみの撤去費用に8億円あまりかかる。その撤去費用を差し引いて、1億3400万円になった」 本当に8億円も撤去費用がかかるのだろうか。このごみの量の積算については、後に会計検査院が「根拠が不十分」と指摘した。 そして2月17日、安倍晋三首相の口から飛び出したのが、あの答弁だ。 「私や妻がこの土地取引に関係していれば、首相も国会議員もやめる」 「神風が吹いた」 驚きの証言 拡大する衆院予算委で答弁する安倍晋三首相。森友学園への国有地売却について「私や妻が関係していれば、首相も国会議員も辞める」と述べた=2017年2月17日午後、岩下毅撮影 断言だった。野党の追及は勢いを増した。 国会では、もう1人の当事者、森友学園の籠池泰典理事長(当時)の証人喚問が行われた。偽証をすると罪になるという重い場で、籠池氏はこの大幅値引きについて驚きの証言をする。 「神風が吹いた」 この取引の間に、籠池氏は安倍氏の妻の昭恵氏側に相談していた。昭恵氏の秘書のような役割をしている政府の職員が、この土地取引について財務省に問い合わせをしていたという。 「昭恵さんの名前で物事が動いたんだろう」 籠池氏はこんな見方を示した。野党側は、財務省が昭恵氏の存在、また安倍氏に忖度(そんたく)して値引きをしたんじゃないか、という追及をさらに強めていくことになった。 「少なくとも通常ではない取引だったんじゃないか」 その謎を解くべく、朝日新聞は大阪・東京の社会部で合同の取材班をつくった。東京の社会部は国会や財務省周辺、大阪の社会部は森友学園や土地取引に関わった関係者らを取材していくという役割分担。当時東京社会部でこの取材班を仕切った羽根和人デスクはこう振り返る。 拡大する日本維新の会の下地幹郎氏の質問に答える森友学園の籠池泰典氏=2017年3月23日午後4時48分、国会内、岩下毅撮影 浮上した改ざん ひょっとして財務省が? 「薄皮をむくような感じで事実を積み重ねていかなければいけないなと思っていた」 取材を進める中で、まずはこの土地取引が「特例」というふうに財務省では言われていたことが分かった。 また、通常の国有地売却は一括払いが基本にもかかわらず、この土地の場合は異例の分割払いを認めていることも明らかになった。 そうした取材の中で、ある疑いが浮上した。 「財務省が公文書を改ざんしたのではないか」 公文書は民主主義の基本だ。公文書を元に国会審議が行われ、行政は全て公文書で動いている。それを改ざんするということは、行政をゆがめ、国民にうそをつくことと同義と言える。 拡大する辞意を伝えた後、報道陣の取材に答える佐川宣寿氏=2018年3月9日午後9時11分、東京・霞が関、越田省吾撮影 財務省は、国の中枢を担う「省庁の中の省庁」といわれる。その財務省が本当にその公文書を改ざんするのだろうか。 国会答弁に立っていた佐川氏の態度はかたくなで、説明に消極的だった。その姿勢の不自然さを考え、「改ざんはひょっとしてあり得ない話でもないと思った」と羽根デスクは言う。 取材班はこの後、解明のために、この土地取引に関する膨大な資料と向き合うことになる。どの文書のどの部分が、どう改ざんされたのかを特定する、根気のいる作業だった。 さらに取材を進め、改ざんされたことを証明するだけの材料がそろった。取材で得た情報を、財務省に直接「当て」にいくという段階にまで至った。 ◇ 朝日新聞が改ざんの情報をつかんだ経緯や根拠について、羽根は「一定程度説明責任はある。一方でニュースソースは守らなければいけないし、何を判断材料にしたのかは、言えないものもある。情報源を秘匿できないのならば、ジャーナリズムが成り立たない」と話す。 情報源が分かれば、政府の犯人捜しが始まったり、その人の身に危険が起きたり、処分されたり、ということが起こりうるからだ。これは朝日新聞だけではなくて、全てのメディアがそうしている不文律だ。 朝日新聞は政権に批判的だからそういうあら探しをしているんじゃないか、との疑念もぶつけられるが、羽根はこうも言う。 「最初から疑いを持ってやっているわけでなくて、いろいろな事実、情報が出てくる中で、疑問が出てきたから、取材をする。イデオロギーのようなものはむしろ報道の邪魔で、色眼鏡で見ると、真実は見えなくなるんですね。そういったものは極力排して、事実を公平な目で見ることをしないと、特に調査報道は成り立たない」(聞き手・神田大介、構成・岸上渉) 拡大する財務大臣室に入る佐川宣寿・国税庁長官=2018年3月9日午後7時17分、東京・霞が関、越田省吾撮影 Source : 社会 – 朝日新聞デジタル