有明海水族館ものがたり㊤ 有明海に面する福岡県柳川市。城下町を巡る川下りで知られる掘割(水路)で、ふわりと放った投網が弧を描き、ピシャッと水面を打った。 「お見事!」 見物客の拍手を浴びたのは、掘割沿いに立つ「やながわ有明海水族館」の館長で、高校3年生の亀井裕介さん(18)。投網は、水族館で展示する魚の補充と館のPRを兼ねた「業務」だ。 ニゴイにギンブナ、ヌマムツ……。素早く網をたぐり、捕れた魚を確認すると、絶滅危惧種ヤマノカミの姿がみえた。 「マジか、すっげえ」と興奮しつつ、解説を始めた。 「ここで千回は投げたけど、ヤマノカミは初めて。カジカの仲間で、海で生まれて川で育つ回遊魚。名前の由来は自分より醜いものが好きな神様に捧げられたからとか。でも、えらのオレンジ色がきれいでしょ」 気付けば、周囲に人だかりができていた。 「川ガキ」から館長へ、きっかけは大水槽のジンベエザメ 「やながわ有明海水族館」は手作り感たっぷりの小さな施設ですが、新型コロナ禍による危機も乗りこえ、人気はうなぎ登り。そんな水族館の魅力を㊤㊥㊦の3本の記事でお伝えします。記事の後半には、掘割での魚とりの様子などを紹介する動画もあります。 水族館は地元のNPO法人「… この記事は有料記事です。残り2081文字有料会員になると続きをお読みいただけます。 Source : 社会 – 朝日新聞デジタル
副知事に近づいた「Aさん」 公選法違反事件の温床は山口県庁の忖度
「今回も頼むね」「分かりました」――。2021年の衆院選山口3区で当選した自民党議員の後援会入会を巡る公職選挙法違反事件。山口地検が開示した刑事確定記録には、党関係者から副知事が協力を求められ、職員らが政治活動に立ち働く状況が生々しく記されている。浮かび上がってくるのは、当時の政治状況を踏まえて「忖度(そんたく)」する県庁の姿だ。 「入会申込書を配らないといけない」 副知事、庁内の自室で指示 刑事確定記録は朝日新聞の請求に対し、山口地検が2月に開示した。供述調書などによると、事件はこのような経緯をたどった。 「今回も頼むね。林先生のやつなんだけど」 発端となったのは21年4月下旬、小松一彦副知事(当時)が「Aさん」と供述調書にある人物から、参院議員だった林芳正外相の後援会入会の勧誘への協力を求められたことだった。 これを了承した副知事は県庁の自室に部下を呼び、「自民党からの依頼でリーフレットと入会申込書を配らないといけない」と説明。衆院山口3区(宇部市や萩市など)に自宅や出身校、本籍地がある県職員のリストを作るよう指示した。前後して、約3千枚のリーフレットと入会申込書が副知事室に運び込まれた。 指示を受けた職員は、全職員の人事データが入ったファイルから条件に合う職員をリストアップして印刷した。重要な個人情報である人事データは本来、業務を円滑に進めるために使うもの。選挙に活用されることを想像したが、「深く考えないようにした」という。 副知事は、リーフレットなどを部局ごとに封筒や紙袋に仕分けさせ、作成された職員リストを入れた。各部局の幹部を呼んで手渡し、部下への配布と回収を依頼した。 「無理をしなくていい」と付け加えたが、「私が個人的に依頼したからではなく、副知事として指示したから引き受けてくれた」と認識していた。 副知事はどの選挙に向けた後援会勧誘かまでは「Aさん」から聞かされていなかった。だが、林氏がその年に予定される衆院選で山口3区にくら替え出馬を狙っているとの報道があり、「Aさんからの依頼は林議員がその選挙で確実に当選できるように、支援者を集めるための準備だろうと考えた」。職員リストを3区関係に絞ったのはそのためで、「同級生や知り合いに協力を依頼してくれる可能性がある」として、選挙権を持つ職員以外も入れるよう求めた。 公選法違反事件の概要 起訴状などによると、副知事(当時)は21年4月下旬ごろ、副知事室で部次長級職員5人に林芳正氏の後援会の入会申込書やリーフレットを渡し、入会するよう県職員78人を勧誘させたとされる。副知事は同年12月、公職選挙法違反(公務員の地位利用)の罪で罰金30万円の略式命令を受け辞職した。県の調査チームの報告書によると、県の幹部職員195人が後援会への勧誘行為を依頼され、うち191人が応じていた。山口市の幹部職員2人も同罪で罰金の略式命令を受けた。 各職場で配られた入会申込書… Source : 社会 – 朝日新聞デジタル
渋谷のアクセサリー店強盗容疑、19歳を逮捕 三重の警察署に出頭
遠藤美波2023年3月19日 11時50分 東京都渋谷区のアクセサリー店で14日に貴金属などが奪われた事件で、警視庁は19日、三重県に住む職業不詳の少年(19)を強盗の疑いで逮捕し、発表した。少年は事件に関与したことを家族に相談していたといい、同日午前1時ごろ、家族に付き添われて同県内の警察署に出頭した。「指示を受けて1人で店に入り強盗をしました」と容疑を認めているという。 捜査1課によると、少年は14日午後6時40分ごろ、渋谷区神南1丁目のアクセサリー店で20代の男性店長らに包丁を突きつけて「強盗だ」「金を詰めろ」などと脅し、アクセサリー類100点以上(計約4千万円相当)と現金約350万円を奪った疑いがある。 同課は事件当日に東京都中野区内のコインパーキングで逃走に使われた金沢ナンバーのレンタカーを押収し、使用した人物の行方を追っていた。車の内外には消火器の粉がかけられており、少年は「自分でかけた」と話しているという。同課は指示役など他にも関与した人物がいる可能性があるとみて調べる。(遠藤美波) 有料会員になると会員限定の有料記事もお読みいただけます。 Source : 社会 – 朝日新聞デジタル
枠にとらわれない韓国式中華 かみ締めるほど立ち昇る酸味と甘味が妙
有料記事 脇本暁子=ライター2023年3月19日 12時00分 祥龍(兵庫) ぷっくりふくらんだ黄身をつつきたい衝動を抑えつつ、まずは炒飯(チャーハン)をひとさじ。フワッと香るゴマ油とシャキシャキな白菜キムチの旨辛具合と、かみ締めるほど立ち昇るほのかな酸味と甘味。さぞこだわり抜いた調味の妙と思いきや「使うのは白菜キムチとゴマ油とネギだけ。味付けは一切してないよ」と笑うのは、シェフの池英恵(チーエイケイ)さんだ。 中国人の父と韓国人の母をもつ中国ハルビン出身の池さんは、中国東北料理のほかオモニ(お母さん)譲りの韓国式中華も提供。 「酸っぱいキムチほど炒める… この記事は有料記事です。残り464文字有料会員になると続きをお読みいただけます。 Source : 社会 – 朝日新聞デジタル
火災で焼失した「小倉昭和館」が再建目指しCF 目標は3千万円
北九州市の旦過市場一帯で昨年8月に起きた火災で焼失し、再建を目指している老舗映画館「小倉昭和館」は、スクリーンなど映画館の設備費用に充てる目的で20日からクラウドファンディング(CF)を始める。館主の樋口智巳さん(62)が18日、発表した。3千万円を目標に、4月末まで寄付を募る。 昭和館は現在、12月に開かれる北九州国際映画祭に合わせた再建を目指し、4月の着工を予定している。計画では、新たな映画館は平屋建てで、座席は約135席の1スクリーン。観客以外にもロビーを開放するパブリックスペースを備えるという。 建物は地権者の不動産会社が建てる。昭和館は建物と土地を借り、設備を整えて運営する。今回のCFで集まった資金はスクリーンのほか、デジタルと35ミリの映写設備、座席、舞台設備などに活用する。寄付金額に応じて、昭和館の写真などを収めたフォトブックなどのグッズがもらえる。 樋口館主は「自力での再建は… この記事は有料記事です。残り409文字有料会員になると続きをお読みいただけます。 Source : 社会 – 朝日新聞デジタル
奈良公園の交差点、「左折可」表示を廃止 県外観光客の混乱に考慮
渡辺七海2023年3月19日 8時59分 奈良公園の県庁東交差点(奈良市登大路町)に設置されていた「左折可」の表示が17日に廃止された。背景には、奈良公園バスターミナルの整備などにより近年、周辺の渋滞が緩和したことなどがあるという。 奈良公園バスターミナルのすぐ南東に位置する県庁東交差点の3方向にあった左折可の表示が撤去され、あらたに「左折矢印信号」に切り替わった。 県警によると、同交差点の左折可の表示は、1959年に設置された。観光地が集中する奈良公園周辺は渋滞が起きやすいため、車の流れを円滑にする狙いがあったとみられる。2019年に同バスターミナルが整備されたことなどにより、同交差点から東大寺や春日大社がある東側へ向かう観光バスが減少し、渋滞が起きにくくなっていたという。 左折可の表示の廃止については、他の方向からの合流が危険との声や、表示になれていない県外の観光客に混乱が生じているといった状況を考慮したという。 17日には、梅谷口南と平城ニュータウン東の両交差点(いずれも奈良市)の左折可の表示も撤去された。 15日現在で県内には、26の交差点に左折可表示が設置されてしたという。(渡辺七海) 有料会員になると会員限定の有料記事もお読みいただけます。 Source : 社会 – 朝日新聞デジタル
看護師として向き合う臨終 自分に迫った死に激しい恐怖を抱く
僧侶 松山照紀さん シングルマザーになった私は平日、看護師を目指しながら病院に勤務する傍ら、休日になれば福岡のホスピスでボランティアをしたり、死生学のセミナーを受講するために上京したり。マザー・テレサが運営するインドの施設を訪ねたことも。頼るべき伴侶がいなくなった私の胸には、幼少期に芽生えた「死」へ関心がむくむくと湧き上がってくるようでした。 高度化する医療現場に身を置き、死にゆく人に対する医療者の振る舞いにも違和感が膨らんでいきました。例えば80代の患者さんが臨終に近づくと、家族は病室を出され、医者が力いっぱい心臓マッサージを始める。病院経営という観点からは必要な処置でしたが、私は〈自分の身内にはやってほしくないし、自分が死ぬ時にも嫌。家族に手を握られて旅立たせてあげればいいのに〉と思ってしまう。しかし一看護師の立場では、どうすることもできませんでした。 ジレンマを抱えつつ病院で働き、同居する祖母の介護も大変になりつつあった32歳の時、激しい倦怠(けんたい)感に襲われました。病院に駆け込みましたが確定診断がつかず、即入院。その後、「結核性胸膜炎」にかかっていることがわかりました。昔は「肋膜(ろくまく)炎」と呼ばれて恐れられた病気です。 入院してしばらくは病名の診… この記事は有料記事です。残り888文字有料会員になると続きをお読みいただけます。 Source : 社会 – 朝日新聞デジタル
公立高校入試で採点ミス933件 6人誤って「不合格」 千葉県教委
千葉県教育委員会は17日、2月21、22日に実施した公立高校入試の学力検査について、98校で計933件の採点ミスがあったと発表した。1教科で本来の得点より10点低いケースもあった。合格なのに不合格とされた受験生が5校6人おり、謝罪して合格を伝えたという。千葉県の公立高校入試で大規模な採点ミスが発覚するのは初めて。 公立高入試の学力検査は国語、数学、英語、理科、社会の5教科で各100点満点。県教委によると、採点ミスがあったのは、県立高校120校中92校と、市立高校7校中6校。学校別では幕張総合(61件)▽津田沼(42件)▽小金(41件)など。ミスは5教科すべてにわたり、正誤の判定の誤り(467件)▽配点の誤り(102件)▽小計や合計点の誤り(301件)があった。 誤って不合格とされた受験生について、すでに私立高に入学金などを支払ったケースがあれば、対応を検討する。点検で合格から不合格に変わるケースはなく、2次募集の定員は変更しない。 受験生からの情報開示請求で発覚 冨塚昌子・県教育長は記者会… この記事は有料記事です。残り365文字有料会員になると続きをお読みいただけます。 Source : 社会 – 朝日新聞デジタル
「はよ戻ってきなさい!」難病の娘にもらった力 68歳が進む芸人道
福岡市の中心部にある商業施設「キャナルシティ博多」。1階の吹き抜けスペースに集まった30人ほどの観客の前に、漫才コンビ「バリカタめんたいZ(ず)」が走りながらやって来た。 68歳の「まり凜(りん)」こと平川景子さんがマッチングアプリを始めるという設定で、相方の「いしづち君」こと岩口元樹さん(48)がテンポよくつっこむ。 「私、結婚サプリやりようとよ」 「いや、アプリね!」 4分弱、勢いのある漫才を披露すると、会場は笑いに包まれた。 まり凜さんが芸人の道に進んだのは2年前、66歳の時だ。きっかけは、一緒に暮らす長女あいさん(36)の存在だった。 あいさんは1986年、妊娠28週で生まれ、体重は780グラム。半年間、未熟児室で生死の境をさまよった。けいれんや知的障害が特徴の難病「結節性硬化症」を患っていた。 まり凜さんは30代と40代で2度離婚。エレベーターを設置する会社で経理の仕事をしながら、あいさんを自宅で介護し、男女計3人の子どもを育ててきた。 「あいちゃん、何やっとんね!」 あいさんが21歳の時のことだ。両肺の同時気胸を起こし、救急車の中で心肺が停止した。 「あいちゃん、何やっとんね!」「はよ戻ってきなさい!」。まり凜さんが大声で呼びかけ続けると、あいさんは5分後に息を吹き返した。 その後も酸素不足による気絶やけいれんを繰り返し、7年間で14回の入退院を繰り返した。 まり凜さんは難しい判断を迫られ、命を預かる重さに押しつぶされそうになった。病院を出ると、白く光る月が浮かんでいる。「私、どうしたらええんやろうね」。そうつぶやいて涙をこぼした夜もあった。 死と隣り合わせで生きるあいさんといることで、今この瞬間を生きているのは当たり前ではないと気づいた。生きているうちに本当にやりたいことをやらないと。茶道や生け花、ダンスなど、打ち込めるものを探したが、ゴスペルのほかは長続きしない。 お笑いの道「こんな幸せなことはない」 生活の慰みは、テレビで見る漫才やコントだった。クスッと笑えば、気持ちが切り替わった。「私もネタをつくり、人を笑わせる仕事がしたい。66歳で芸人始めてもよかろうもん」 2021年春、福岡市にある吉本興業グループの養成所(NSC)に入学。厳しいダメ出しもあったが、ネタをつくる時間は楽しかった。「どうしたら人に笑ってもらえるかが悩みなんて、こんなに幸せなことはない」と思った。 NSCの卒業が近づいたころ。あいさんが酸素ボンベを引きながら一人で劇場に来てくれた。引きこもりがちだったが、自分でタクシーを呼び、乗ってきたという。「舞台に立っているお母さんの漫才を見たかった」。先輩芸人と笑顔で話すあいさんを見て、まり凜さんは思った。「私が漫才を始めた理由の一つは、あいに元気になってもらうためだったんだな」 スタートは遅かったかもしれない。でも、人生の酸いも甘いも味わってきた経験は、ほかの若手にはない強みだ。 「夢はM―1優勝です。この年齢からめざしても、いいんよね?」(椎木慎太郎) Source : 社会 – 朝日新聞デジタル
「伝えたい」 思いは同じはずなのに 短歌と見出しの違いに悩む
「舞いあがれ!」は、言葉の魔法がかけられたドラマだ。 いま放映中のNHKの連続テレビ小説は、3月31日に最終回を迎える。メインで脚本を手がける桑原亮子さんは、歌人としても知られる。 彼女の筆が紡ぎ出す繊細なセリフに、毎朝癒やされ、胸を打たれている。 特に、ヒロイン舞(福原遥)の幼なじみで、伴侶となった貴司(赤楚衛二)の短歌が、この物語にぐっと深みを与えている。 《君が行く 新たな道を照らすよう 千億の星に 頼んでおいた》 貴司が舞に送ったこの歌が、実は万葉集にある激しい恋心の歌の本歌取りだったことを知ったときには、「五・七・五・七・七」の31文字で描かれる世界の奥深さを、改めて気づかされた。 デジタル記事配信に携わっている立場としては、アクの強い編集者の登場もあって、創作や表現について考えさせられることも多い。 「売れなければ世の中に知られない」と広言する彼らの存在が、心の奥深いところを描く短歌の世界を逆にくっきりと浮かび上がらせているように思う。 桑原さんとはどんな人なのか。 朝日新聞のこれまでの記事な… Source : 社会 – 朝日新聞デジタル