社会

進むファスト化、「もっと」と求めるのではなく リロン編集部から

吉田貴文2023年9月17日 7時30分 「スローライフ」で知られる文化人類学者の辻信一さんを20年近く前に取材した。携帯電話が普及しつつある頃だったが、速さや効率を「もっともっと」と追い求めないよう「携帯は下手なままでいます」と語っていたのが記憶に残る。 今では、桁違いに効率的になったスマートフォンを大半の人が持つ。社会のファスト化が加速度的に進む中で、「ゆっくり」はまだ意味を持つのか? 「スロー」をめぐる価値や思考を問い直すインタビューシリーズを企画した。 1本目は「リアルの場の力を 宇野常寛さんが考える『遅いインターネット』の次」(9日配信)。宇野さんは「今のインターネットは速すぎて、人間に考えさせない装置となっている」と語る。自らが提唱した、あえてネットでじっくり思索する「遅いインターネット」の取り組みは問題提起にとどまっているとし、「速いネット」に対抗する場を実空間に作る取り組みを始めた。 2本目の「『スローニュース』再始動の戦略は 瀬尾代表がつなぐ調査報道の価値」(10日配信)で瀬尾傑さんは、手間と時間がかかる調査報道の情報は信頼でき、民主主義に不可欠と指摘。新たなコミュニティーづくりを目指す。 3本目は「『鈍考』で知る90分の価値 幅允孝さんが読書空間で問う遅効性とは」(11日配信)。幅さんは「即効性からはあえて鈍くあり、自身のペースで深く考える場所」として、京都の山あいに完全予約制の私設図書室をつくった。 共通するのは、人間が主体的に考える時間を大切にする点だ。忙しさを口実に、速さや効率を「もっともっと」と求める自らを省みた。(吉田貴文)有料会員になると会員限定の有料記事もお読みいただけます。※無料期間中に解約した場合、料金はかかりませんRe:Ron対話を通じて「論」を深め合う。論考やインタビューなど様々な言葉を通して世界を広げる。そんな場をRe:Ronはめざします。[もっと見る]Source : 社会 - 朝日新聞デジタル

「国際銀行口座、開きたい」相談受けた銀行員が客のSNSを見ると…

宮沢崇志2023年9月17日 8時00分 兵庫県警姫路署は詐欺被害を未然に防いだとして、りそな銀行姫路支店の八木敦子さん(38)に感謝状を贈った。 7月5日午前、窓口業務に就いていた八木さんに、50代の男性が話しかけた。「国際銀行の口座を開設したいんだけど」 これまで受けたことのない相談だった。分かりませんとだけ答えることもできたが、八木さんは会話を続けた。「なぜ口座開設が必要なのですか?」 男性は紛争地帯への支援に150万円を送るのだという。後に2千万円が返ってくる、とも話した。送金のための150万円を融資してもらうことはできるか、という話になり、八木さんは詐欺だと確信した。 男性は、SNSで知り合った女性の話を信じ込んでいるようだった。「証拠」としてSNS上の会話を八木さんに見せた。 「かなりの量のやり取りがありました。『親愛なる友人』という表現を見て、もしかしたら日本の方ではないのかな、という印象を持ちました」 相手からのメッセージには「銀行には知られないように」というような文言があったが、相手を信じている男性は、八木さんにその部分を読まれても気にしない様子だった。 男性を見ていて、「警察に行っては」と八木さんが話しても相談には行かないだろう、と感じた。上司に警察への通報をお願いし、会話を続けた。警察官が到着し、男性は通報していたことを知らされたが、落ち着いた様子だったという。男性から話を聴いた署は、詐欺未遂事件として捜査している。 姫路署は「白鷺(しらさぎ)とめ太郎」というキャラクターをつくり、特殊詐欺被害撲滅を目指し、姫路市内の事業所と連携している。8月22日に感謝状を手渡した白野邦昌署長は「詐欺の手口は様々。八木さんには、特殊な口座の開設という点に注目していただいた。適切に対応いただき、ありがとうございます」と話した。(宮沢崇志)有料会員になると会員限定の有料記事もお読みいただけます。※無料期間中に解約した場合、料金はかかりませんSource : 社会 - 朝日新聞デジタル

総長カレー発案の元総長に聞く京大の自由 「面影だけだが妙に定着」

 2003~08年に24代京都大総長を務めた地震学者の尾池和夫さん(83)。在任中には大学の法人化を経験し、「総長カレー」をヒットさせたことでも知られる。学生時代を含めて40年以上を過ごした母校の今に何を思うのか。京大の特徴や大学のあるべき姿を聞いた。 ――京大と言えば自由の学風ですね。 自由の学風はどこかに書いてるわけでもないけれど、旧制第三高等学校以来、世間が勝手に言うてました。あらゆるところにそういう面影があるだけだけど、妙に定着してますね。 東京大の基本理念は僕も知らないけれど、京大はみんなが知ってくれてる。それは特徴であってほしいと思う。ドイツなど西洋の大学でも本来自由の学風っていうのが当たり前ですよね。今後も、自由の学風をやめようということはないでしょう。 ――自由の学風に必要なことは。 思うことを、あまり口に出さなくなるとまずいですよね。「発言が自由である」ということは自由の学風と一対一で対応します。 「自由の学風」が変革の波に揺れている。霊長類研究所の解体や、講義の無料公開サイトの終了方針には反対や異論が噴出。国際卓越研究大学の選に漏れた京都大の今と行く末をどう見るか、学生や教員、卒業生らに聞いた。交付金の削減 文化の破壊行為 ――法人化は大学にとって一つの節目だったのでは。 政府は当時国会で、「交付金…Source : 社会 - 朝日新聞デジタル

殺害のラーメン店長、上半身に傷多数 発見時には「臨時休業」の看板

手代木慶 中村英一郎 阿部育子2023年9月16日 18時55分 京急上大岡駅(横浜市港南区)近くのラーメン店で、店長の大橋弘輝さん(33)=同区=が血を流して倒れているのが見つかり、死亡した事件で、遺体には上半身を中心に刃物による多数の傷があったことが県警への取材でわかった。店内には争った形跡もあることから、神奈川県警は殺人事件とみて捜査。司法解剖して死因を調べるとともに、店内に不審な人物の出入りがなかったか、防犯カメラ映像などで調べている。 県警などによると、15日夜、連絡が取れないことを心配した親族が店に駆けつけ、店内で血を流して倒れている大橋さんを発見した。「背中と腹部を複数刺され、血が大量に出ている」と119番通報があり、病院に搬送されたが、死亡が確認された。当日昼は営業していたが、発見時、店頭には「臨時休業」の看板が出ていたという。 店は駅から約100メートル。居酒屋やスナック、パチンコ店などが立ち並ぶ繁華街の一角にある。大通りから奥まった道沿いで人通りは多く、車の抜け道にもなっているという。 複数の利用客によると、大橋さんの店の営業は基本的に1人で、時間帯によって店員は交代していたようだ。ラーメン1杯500円のキャンペーンを企画するなど、「すごく頑張っていた」と話す人もいた。 近くの飲食店で責任者を務める男性(48)は「ニコニコした気さくないい青年。悩みがある雰囲気は感じなかった。同じ業界でがんばろうと思っていた」と話した。 毎週店に通い、大橋さんの家族も知るという南区の女性(69)は夫(81)と現場近くに花を供え、手を合わせた。大橋さんは女性を「お母さん」と呼び、慕っていたという。「人に恨まれるような子じゃない。本人も家族もかわいそう。犯人が許せない」と涙ぐんだ。(手代木慶、中村英一郎、阿部育子)有料会員になると会員限定の有料記事もお読みいただけます。※無料期間中に解約した場合、料金はかかりませんSource : 社会 - 朝日新聞デジタル

新宿駅1日駅長を返礼品に 新宿区のふるさと納税、寄付100万円

細沢礼輝2023年9月16日 19時00分 JR東日本首都圏本部と東京都新宿区が、同区へのふるさと納税の返礼品として、JR新宿駅長の1日体験プランを用意した。100万円の寄付者が対象で、来年2月17日と3月9日に各日1人限定。ウェブサイト「JRE MALL」のふるさと納税サイトで、10月3日午前10時から先着順で受け付ける。 新宿駅は、1日約120万~約160万人が乗降する国内最大のターミナル駅。体験日当日は駅長専用の白い制服を着て、駅構内や運転士、車掌らの職場を巡回したり、式典で列車の出発合図をしたりする予定だ。JR東日本は「たっぷり6時間をかけて、プレミアムな体験をしてもらう」と話している。 このほか、終電後の新宿駅ホームで駅員の作業を体験したり、車両を見学したりするプラン(寄付金額30万円)や、みどりの窓口や改札での駅員体験プラン(同6万円)も用意されている。いずれも受け付けは10月3日午前10時から先着順。(細沢礼輝)有料会員になると会員限定の有料記事もお読みいただけます。※無料期間中に解約した場合、料金はかかりませんSource : 社会 - 朝日新聞デジタル

「原爆のフィルムは燃やせ」 カメラマンは縁の下にネガを隠した

【プロローグ】A Scene「あの少年は父です」ー被爆78年後の真実ー(本編は記事の末尾に) 1976年8月の朝日新聞社内報に、こんな記述がある。 「長い写真記者生活のうち、これほど激烈な事件に出会ったことはない。この広島だけは、今もって私の眼底に焼きついたままである」 「火傷(やけど)の手当てを受ける少年」の写真を撮影したのは、朝日新聞写真記者の宮武甫(はじめ)さんだった。当時30歳。原爆投下から4日後の1945年8月10日、広島赤十字病院(現広島赤十字・原爆病院)で撮った10枚のうちの1枚だった。 「対敵宣伝」に役立つ写真撮影を狙って大阪で編成された陸軍の宣伝工作隊の一員として前日の9日に広島に入り、壊滅的な被害を受けた街の様子を記録していた。限られたフィルムで撮影したのは119カットだった。 少年の写真を含む宮武さん撮影の4枚は、9月4日付の朝日新聞朝刊(大阪本社発行)に掲載された。連合国軍最高司令官総司令部(GHQ)による占領下のプレスコード(報道規制)で広島の被爆者の実態を報じるのが難しくなる直前で、貴重な報道となった。 その後GHQから「原爆関係…この記事は有料記事です。残り910文字有料会員になると続きをお読みいただけます。※無料期間中に解約した場合、料金はかかりませんSource : 社会 - 朝日新聞デジタル

78年の時を超え家族は出会った 被爆した少年と医師、写真が結ぶ縁

 広島市の広島平和記念資料館で9月9日、2組の遺族が初めて対面した。78年前、広島への原爆投下から4日後に撮影された写真「火傷(やけど)の手当てを受ける少年」の被写体となった少年と医師のそれぞれの遺族だ。 撮影時の少年で、78年を経て身元が明らかになった原田成男(なりお)さん(1999年死去)と、2018年に身元がわかった医師の永田幸一さん(88年死去)。 館内の高い位置に掲げられたその写真のパネルを、遺族はそろって見上げた。 原田さんの妻美奈子さん(8…この記事は有料記事です。残り843文字有料会員になると続きをお読みいただけます。※無料期間中に解約した場合、料金はかかりませんSource : 社会 - 朝日新聞デジタル

中野駅の新駅舎に幅19メートルの自由通路 26年に開業予定

細沢礼輝2023年9月16日 19時30分 JR東日本は中野駅(東京都中野区)の西側で建設を進める新駅舎の概要を公表した。中野区、東京メトロとの共同事業で、構内に設ける南北自由通路とともに2026年の開業をめざすという。 中野駅にはJR中央線快速、各駅停車と東京メトロ東西線が乗り入れる。現在の駅舎は中野通りの東側に位置し、高架構造の線路とホームは2階、改札やコンコースは1階にある。 新駅舎は中野通り西側に駅ビル併設の5階建てで建設し、現駅舎と一体的に利用できるようにする。新駅舎はホーム上を覆うかたちで人工地盤を設け、改札とコンコースを設置。4面あるホームには、いずれも15人乗りエレベーターとエスカレーターで行き来できるようにする。 また、改札に面して幅19メートルの南北自由通路を開設。改札内にエキナカ商業施設を設けるほか、駅ビルの商業施設は「アトレ」が運営する計画だ。 中野駅周辺では、7月に閉館した「中野サンプラザ」跡地に、オフィスや大ホールが入る複合施設が計画されている。(細沢礼輝)有料会員になると会員限定の有料記事もお読みいただけます。※無料期間中に解約した場合、料金はかかりませんSource : 社会 - 朝日新聞デジタル

交通安全も「気合だ」浜口京子さん ピーポ君がふらつく場面も

宮脇稜平2023年9月17日 0時43分 秋の全国交通安全運動(21~30日)を前に、警視庁昭島署と福生署は16日、JR拝島駅(東京都昭島市)で交通安全を訴えるイベントを開いた。レスリング元日本代表の浜口京子さんが一日署長を務め、「交通安全の気合注入をさせていただく」と呼びかけると、集まった駅利用者とともに「気合だ!」と10回叫び、会場を沸かせた。 イベントには親子連れらが集まり、昭島署の福島稔署長が「これから日が短くなり、事故の発生が予想される」と注意喚起した。浜口さんも、父のアニマル浜口さんから、交通事故に気を付けるように言われて育ったエピソードを披露するなどした。 一方、イベントの会場を同駅のロータリーに移した後に、警視庁のマスコット「ピーポくん」が倒れるアクシデントがあった。昭島署によると、着ぐるみを着た女性署員が暑さで体調を崩したとみられる。女性署員は病院には行かずに署に戻り、回復して帰宅したという。(宮脇稜平)有料会員になると会員限定の有料記事もお読みいただけます。※無料期間中に解約した場合、料金はかかりませんSource : 社会 - 朝日新聞デジタル

「たかがヤジ排除、行き着く先は……」 道警ヤジ排除問題で市民集会

佐々木洋輔2023年9月16日 21時00分 2019年夏の参院選で、札幌市で街頭演説中の安倍晋三首相(当時)にヤジを飛ばした市民が道警の警察官に排除された問題で市民団体が16日、札幌市内で「道警ヤジ排除を語る」集会を開いた。排除され提訴した原告の男女2人やジャーナリストの青木理氏らが参加。市民約200人と議論を重ねた。 青木氏は元共同通信記者で『日本の公安警察』などの著書がある。集会では裁判で証人出廷した警察官がいずれも警備(公安)部門の警察官だったことに注目。青木氏は安倍政権が警察出身者を重用していたことから「警察政権だった」と表現し、ヤジ排除を「政権に対する異常な過敏さ、過剰な忖度(そんたく)が起きた」と推測した。「政治と公安の距離が近くなることは危険だ。たかがヤジといえども排除の行き着く先は戦時体制のような社会になる」と話した。 ヤジ排除問題をめぐっては19年12月、排除された男女2人が道警側に表現の自由を侵害されたとして損害賠償を求めて提訴した。 22年3月の一審・札幌地裁判決は、原告2人のいずれについても表現の自由が侵害されたと認め、道警側に計88万円の賠償を命令。原告側の「全面勝訴」となった。 一方、今年6月の二審・札幌高裁判決は、聴衆が拳などで原告男性の腕を押すなど危険が切迫していたとして、男性に対する警察官の行為は適法だと結論。「半分敗訴」(原告側)となり、原告被告ともに最高裁に上告している。(佐々木洋輔)有料会員になると会員限定の有料記事もお読みいただけます。※無料期間中に解約した場合、料金はかかりませんSource : 社会 - 朝日新聞デジタル