5月上旬、プロ野球中日ドラゴンズの選手たちが、キューバ出身のライデル・マルティネス投手(26)の活躍を祝い、ケーキを贈った。ケーキには「亡命、ダメ、ゼッタイ」と書かれており、SNS上では人権意識を批判する声が上がった。どんな問題が潜んでいるのか。フォトジャーナリストで、国内外で人権問題の取材を続けるNPO「Dialogue for People」副代表の安田菜津紀さん(36)に聞いた。 ケーキは、マルティネス投手の通算100セーブ達成を祝うものだった。チームメートで同じくキューバ出身のジャリエル・ロドリゲス投手(26)が3月、米大リーグ球団との契約をめざし、亡命したと海外メディアで報じられていた。朝日新聞の取材に、中日球団側は「選手の中ではシャレだった。本人も納得していた」などと説明した。 「本人も笑っていたからいいんだ」という言説に疑問 ――「亡命」という言葉が使われた背景をどう考えますか。 今回は「亡命」という言葉がカジュアルに使われ、その背景には「笑いのネタにしてもいいんだ」という日本社会の土壌があると思います。日本は難民認定率が1%と極端に少ない。世間でも「ランチ難民」などと難民という言葉がカジュアルに使われてきた。本質がぼやかされ、言葉の意味が本来の意味として伝わっていない。 ――キューバでは生活が苦しく、そうした経済的な理由で国民が国を離れるのだそうです。それは公務員と同等の身分である野球選手も同じだと。 経済苦による移民は、難民申請や亡命とは分けて考えられてきましたが、人命を左右する深刻な状況ではあると思います。またキューバでは、抗議活動をした人々が次々逮捕され、重い禁固刑が下ったということも近年ありました。亡命という言葉は本来、こうして安全が脅かされ、自分の故郷で生きていけないという、切実な状況を内包しているはずです。「笑いのネタにしていい」という誤ったメッセージを送ると、当事者の声はますます追いやられてしまう。マジョリティー側の、自分たちの力に無自覚な振る舞いではないだろうかと考えていました。 ――無意識な偏見や侮辱行為を指すマイクロアグレッション(小さな攻撃)のように、相手を否定することを無意識にやってしまった。 踏んでいる側は痛くないので、「それぐらい笑って見過ごせよ」と。でも踏まれている側は、痛みを感じている。そういう力の不均衡の上に、差別やマイクロアグレッションが起きていく。そのような共通の理解が、この社会でまだ乏しい。 「ケーキを受け取った本人は… Source : 社会 – 朝日新聞デジタル
「スローニュース」再始動の戦略は 瀬尾代表がつなぐ調査報道の価値
独自の調査報道やノンフィクションなどを配信する「SlowNews(スローニュース)」が6月20日にオープンしました。実は「SlowNews」は昨年夏にいったん停止。1年ぶりに装い新たに再始動したかたちです。以前とどこが違うのか? 「スロー」に込めた思いとは? 「SlowNews」を運営するスローニュース代表、瀬尾傑さんに聞きました。 なにかとタイパが求められるファスト社会で、「スロー」を重視する動きが相次いでいます。ときには立ち止まって、じっくり、深く……スローをめぐる価値、思考の意味を問い直すインタビューシリーズです。 ――今回、「SlowNews」を再始動されました。社名ともどもスローという言葉が入っています。 時間をかけてゆっくり取材する。記事をじっくり書く。読み手はゆっくり咀嚼(そしゃく)して読んで反応する。そんなスローな世界を僕らは目指したいと考えています。 ネットはファスト(速さ)一辺倒。ニュースは次々と流れ、見出しを見て読者は即、反応する。配信する側は見た瞬間にクリックさせるように仕掛ける。こんな世界に対して「違う価値」があることを示したい。 ――調査報道へのこだわりとも関連する? はい。隠れていたファクトを丹念に調べて明らかにする調査報道には手間と時間がかかる。ゆっくりの世界です。でも、様々な観点からチェックされているから、その情報は信頼できる。それは民主主義のためにも不可欠だと思っています。 サブスク停止、戦略変更と再始動 ――前身のSlowNewsは2022年7月に停止したのはなぜですか。 21年2月に始め、およそ1年半で見直すことにしました。お金を払ってもらった会員に独自の調査報道やノンフィクションの書籍などを読んでもらう「サブスク(定額購読)モデル」でスタートしましたが、書籍のような長いコンテンツを読んでもらうことで満足してもらうのは難しかった。プロダクトを随時改善したけれども、期待したマーケットフィットは達成できませんでした。 一方で、関心のある調査報道をお金を払って読みたい読者がきちんといることには手応えを感じた。そこでプロダクト運営よりコンテンツを広く届けることに注力することにしました。 再始動した今回は、相当のリ… Source : 社会 – 朝日新聞デジタル
「妹を、母親を殺したのは僕なのか」 友失い「記憶」が途絶えた今夏
妹を、母親を殺したのは僕なのか――京都市伏見区の村上敏明さんが、1946年の夏に中国東北部であったことを公表したのは2015年だった。それから8年になる今夏、村上さんは89歳になった。いまも語りつづけている村上さんを再訪すると、記憶をめぐって身もだえる姿があった。 古い友を福岡市にたずねて 村上さんは8月3日、新幹線にのって福岡市の緩和ケア病棟に小林允(まこと)さん(89)をたずねた。 この古い友とのつきあいのはじまりは、中国東北部(旧満州)にあった四平国民学校で同級生になった81年まえの8月までさかのぼる。 村上さんは病室にはいって「元気そうで安心しました」と声をかけた。 小林さんはベッドの端に腰かけて「村上くんのようなね、友だちはいないですよ」とか弱い声でこたえた。 「小林くんは教室で三国志の話をよくしてくれたよね」 「村上くんはおとなしくてめだたなかったなあ」 2人は、軍国主義だった先生のこと、いっしょに読んだ漫画本のこと、今日までの81年間をふりかえる思いを込めたのだろう「おたがい命がけで生きてきたよなあ」ということをぽつぽつと口にしたほかは、2時間15分の面会のほとんどを無言ですごした。 村上さんが病室の窓から見た福岡市の青空は雲が映えていた。 村上さんが「しんどくないか」「横になったら」と声をかけても、小林さんは「まだだいじょうぶ」「もうすこし」と拒んだ。これまでほとんど毎日のように電話で語りあっていたから新しい話題も特段なかった。2人は、いっしょにいる時間をただただ慈しんだ。2人の間には2人だけに聞こえる歓談が確かにあった。 妹と母親に手をかけた記憶 病院から退出して村上さんは「小林くんにもしものことがあったら、僕の記憶は消えてしまうんだ」と言った。 村上さんの「僕の記憶」――僕は、4歳になる年の1938年に京都市から旧満州にわたった。京都市職員だった父が日本の国策会社・南満州鉄道の関連会社に転じるからだった。現地の学校で親友になったのが小林くんだ。 1945年の旧ソ連の参戦、日本の関東軍にとられた父の不在、日本の敗戦・棄民政策が重なって、母、長男の僕、2人の弟と1人の妹の一家5人が旧満州の地にとりのこされた。 1946年の7月のことだ… Source : 社会 – 朝日新聞デジタル
外国人労働者の場当たり的受け入れは限界 求められる包括的な政策
有料記事 聞き手・岡田玄2023年9月10日 18時00分 外国人労働者の受け入れをめぐる議論が続いている。技能実習制度を見直して職場を移れるようになると、地方の事業者が人手不足になるとも言われる。どのような政策が必要なのか。移民研究が専門の高谷幸・東京大学准教授に聞いた。 1979年生まれ。東京大学准教授(社会学・移民研究)。著書に「追放と抵抗のポリティクス」、編著に「移民政策とは何か」など。 ――外国人労働者の受け入れについて見直しが検討されていますが、事業者側には不満の声もあります。 技能実習制度に依存したことで、根本的な解決を先送りにしてきました。誰かの人権を制限することによる地域の成長は、果たして健全なのか。特定技能制度の導入は、場当たり的に労働者性をごまかしながら受け入れるのでは持たないという共通認識にもとづいてなされたはずです。 技能実習制度の見直し議論では、転職が自由にできるようになることが、ポイントの一つです。みんなが東京などの大都市に行ってしまうのではないかという不安の声が、事業者側から聞かれました。 でも、これは外国人に限らず日本の労働者でも同じです。外国人も日本人も、きちんと働ける体制を地域で作っていくしかない。それは移民労働者政策としてだけでなく、自治体や産業界も取り組むべき対策であるはずです。 確かに都会の方が給料は高いですが、生活費も高い。そういうことまで考えると、都会に行くことは必ずしも経済的なメリットばかりではありません。 日系人に限らず定住する大き… この記事は有料記事です。残り1762文字有料会員になると続きをお読みいただけます。 ※無料期間中に解約した場合、料金はかかりません Source : 社会 – 朝日新聞デジタル
ラグビーW杯戦う主将の「姫ちゃん」 駄菓子屋のおばちゃん語る素顔
ラグビー・ワールドカップ(W杯)フランス大会の日本代表、姫野和樹主将(29、トヨタ)には、小学生の頃から通っている駄菓子屋がある。「勝つことしか考えていない。おばちゃん、見とって」。今春、地元の名古屋市の店に顔を出した際、そんな決意を口にしたというW杯。10日の1次リーグ初戦で、日本代表はチリとぶつかる。 おばちゃんたちがいてくれたから、道を間違わなかった 「おばちゃん」は、名古屋市中村区にある駄菓子屋の店主の篠村智子さん(66)。姫野選手は中学でラグビーを始めてからも、卒業まで学校近くの店に毎日のように通った。ベーゴマやけん玉などで、篠村さんが指定する技を披露すると、店で使える10円券など特典を得られた。みんな真剣な表情で挑んだ。 当時、取引先のメーカーのパンも店に並んでいた。消費期限当日の商品は午後から半額とし、日が暮れる頃に、子どもたちには無料で振る舞っていた。「午後5時を過ぎたら店にいるのは子どもたちくらい。フードロスにならないようにしていたの」。篠村さんはそう話す。 姫野選手もそのパンを楽しみにしていた一人だった。ただ、単に「おやつ」として待っていただけではなかった。8月に出版された自著「姫野ノート 『弱さ』と闘う53の言葉」(飛鳥新社)ではこう書いている。「子どもの頃、家にはいつもお金が無かった。恥ずかしくて悔しかったし、日々の生活も自分の将来も不安だった」 本の中では、友達や先生とと… この記事は有料記事です。残り816文字有料会員になると続きをお読みいただけます。 ※無料期間中に解約した場合、料金はかかりません Source : 社会 – 朝日新聞デジタル
【写真まとめ】紀子さま57歳に オンラインから国内外の現地訪問へ
2023年9月10日 19時00分 秋篠宮妃紀子さまは11日、57歳の誕生日を迎えます。 コロナ禍ではオンラインでの公務や行事が中心でしたが、この1年は国内外を訪問することが多くなりました。 2022年10月、紀子さまは母子愛育会の総裁として、秋田県潟上市を訪問。同会主催のおもちゃづくり教室では、子どもたちに優しく声をかけていました。 今年2月には熊本市を訪問し、総裁を務める結核予防会の全国大会であいさつしました。 5月には、英国チャールズ国王の戴冠(たいかん)式に秋篠宮さまと参列しました。 この1年を中心に、紀子さまのこれまでの活動を写真で振り返ります。 有料会員になると会員限定の有料記事もお読みいただけます。 ※無料期間中に解約した場合、料金はかかりません Source : 社会 – 朝日新聞デジタル
チリ料理店主も驚いた初出場 日本の初戦の相手のラグビーとは
日本時間9日に開幕したラグビーワールドカップ(W杯)フランス大会で、日本代表は10日、南米・チリ代表との初戦に臨む。出場する20チームのうち唯一の初出場となるチリは、どんなチームなのか。チリのラグビーについて、日本に移り住んで40年のチリ料理店主、エドゥアルド・フェラダさん(66)に聞いた。 チリの世界ランキングは22位で、同14位の日本にとっては格下だ(9月4日現在)。W杯には1995年以降、7度挑戦しているが、いずれもアメリカ大陸の地区予選で敗れている。 しかし元ウルグアイ代表のパブロ・レモイネ・ヘッドコーチが就任した2018年以降、着実に実力をつけ始め、今回、7チームで2枠を争う地区予選で、W杯常連のカナダ代表や米国代表を上回り、初出場を決めた。 「びっくりしたよ」 チリ・サンティアゴ出身で東京・中野でチリ料理店を営むエドゥアルドさんは、W杯出場を決めたことを本国のニュースで知ったという。 「いつも予選で負けているか… この記事は有料記事です。残り944文字有料会員になると続きをお読みいただけます。 ※無料期間中に解約した場合、料金はかかりません Source : 社会 – 朝日新聞デジタル
百年の時を超え研究者育てる練習船 座学で得られないことを「実感」
ベーリング海峡を抜けて北へと走る北海道大水産学部の練習船おしょろ丸。空は白く、北極海には霧がたちこめていた。 「夏はこんな天気ばかりです」と亀井佳彦船長(60)は語る。北極海に来るのは3回目だが、2年前におしょろ丸の船長になってからは初めてだ。北大水産学部にかつてあった特設専攻科で操船を学んで、船乗りになった。 亀井さんは海が好きで船がある大学への進学を志した。学生時代に航海実習を重ね、「座学では得られない『実感』を知った」という。体で覚えていくうちに、船乗りになることが目標になった。定まると学ぶことが楽しくなった。卒業後に北大に採用され、航海士となった。 北極海で衝撃を受けた光景が… この記事は有料記事です。残り1125文字有料会員になると続きをお読みいただけます。 ※無料期間中に解約した場合、料金はかかりません Source : 社会 – 朝日新聞デジタル
質問用紙に「人生がしんどい」 戸惑った飼育員、本気で書いた体験談
4月19日、神戸市立王子動物園に質問箱が設置された。 動物への疑問や飼育員の仕事内容などについて質問を募り、飼育員が答える企画のためだ。 4月19日を「飼育の日」とする語呂合わせで、飼育員のHさんが提案した。 質問と回答は、誰でも読めるようにファイルに入れて広場に置いてある。 その中で、回答するかどうか迷った質問があった。 質問者は「42歳男」となっていて、「最近人生がしんどいです」とだけ書かれていた。 動物にも飼育員にも関係ない内容で、そもそも質問でもない。 どうしようか迷っていた時にふと、「動物たちに助けられた」という来園者の言葉を思い出した。 「私が人生に悩んでいるとき、この子(動物)たちに助けられたの。この子たちに会うことを目標に平日は頑張って、週末会いに来ているの」 この人だけでなく、他の人からも同じような話を聞いたことがある。 もしかしたら回答を書けるかもしれない。 自分が動物たちと接していて感じることや、過去にいじめを受けていた時に母がかけてくれた言葉についても書けそうだ。 人によって受け取り方が異なるから不安だけれど、自分の経験を素直に回答してみよう、と思った。 書いた答えは 返事を書くスペースに文章が収まりきらず、欄外にまで書いてしまった。 書き出しは「動物は好きですか?」という質問にして、以下のように続けた。 ◇ もし好きでしたら動物達に相… Source : 社会 – 朝日新聞デジタル
修道院に眠っていた古オルガン、ワイン店で再生 客も酔いしれる音色
神奈川県葉山町の修道院にひっそり眠っていた古いオルガンが町内にあるワイン専門店に引き取られ、再び温かい音色を響かせている。訪れた人が自由に弾けるほか、店では毎月コンサートを開き、老朽化した修道院の修繕費用に充てるための寄付を募っている。 【動画】修道院で眠っていた古いオルガンを演奏する音楽家の鬼無亮仁さん=芳垣文子撮影 オルガンが保管されていたのは、葉山町堀内にあるイエズス孝女会修道院旧館(旧東伏見宮葉山別邸)。東伏見宮依仁親王の別邸として1914(大正3)年に完成した優美な洋館だ。53年ごろイエズス孝女会修道院に譲渡され、76年と87年の改修を経て、2017年に国の登録有形文化財に指定された。 オルガンを引き取ったのは、近くにあるワイン専門店「アミハヤマ」。代表の鬼無(きなし)美穂さん(51)が17年にオープンした。 オルガンとの出会いは偶然だったという。6月、声楽家で合唱指導者としても活動している夫の亮仁(あきひと)さん(40)の母親が香川県から遊びに来た折、イエズス孝女会修道院旧館に家族で見学に出かけた。ふだんは非公開だが、事前に連絡して調整がつけば見学ができることになっている。 シスターからの思わぬ申し出 亮仁さんはふと、びょうぶの… この記事は有料記事です。残り907文字有料会員になると続きをお読みいただけます。 ※無料期間中に解約した場合、料金はかかりません Source : 社会 – 朝日新聞デジタル