大宮慎次朗2022年2月20日 13時11分 小学1年の次男(当時7)を自宅で殺害したとして、神奈川県警は20日、神奈川県大和市西鶴間3丁目、自称看護助手の上田綾乃容疑者(42)を殺人容疑で逮捕し、発表した。上田容疑者は「何もしていないです」と容疑を否認しているという。 捜査1課によると、上田容疑者は2019年8月6日午前8時45分ごろから午後3時ごろ、大和市の自宅で次男の雄大さんの鼻と口を何らかの方法でふさいで窒息死させた疑いがある。 上田容疑者が119番通報し、雄大さんは搬送先の病院で死亡が確認された。県警は病院から通報を受け、事件かどうか慎重に捜査してきた。(大宮慎次朗) Source : 社会 – 朝日新聞デジタル
きょうだい、いとこからの性暴力がわかったら 専門家に聞く
きょうだい間やいとこからの性暴力はどのように起こるのか。どんな対応をすればいいのか。臨床教育心理学が専門で、民間団体でも被害者支援をしている大阪大学の野坂祐子(さちこ)准教授(48)に聞いた。 野坂祐子さん=2021年12月4日、横浜市、大久保真紀撮影 ◇ きょうだい間やいとこからの性暴力は、表に出にくいだけで、実際にはかなり多いと考えられます。きょうだいからの性暴力は、被害を受けた子どもが「性被害」と気づかないまま続いてしまうことがあります。いとこの場合は、親族との関係性が絡んでくるため、さらに被害を訴えにくいのが実情です。 子どもたちの心身とその後の人生を脅かす性暴力について考える企画「子どもへの性暴力」第6部は、子どもたちの間で起こる性暴力について取り上げます。きょうだい間やいとこからの性暴力を受けたとき、子どもはどんな思いを抱えるのか。性被害を受けた子どもにどのように対応していけばいいのか。親として、大人として、社会として、どんなことを知っておけばいいのでしょうか。 だれにも言えないつらさ、成長や発達に悪影響 きょうだい間の性暴力が起こる背景には、多くの場合、家庭でのネグレクトがあります。世話をしない育児放棄だけでなく、子どもの気持ちを無視する情緒的なネグレクトも含まれます。親が多忙で余裕がなく、子どもを見守れない状況もあります。 そうした場合、さびしさを抱えるきょうだいが寄り添って生活し、その中で性暴力が起こります。初めのうちは、一緒に遊ぶことがおもしろく、心地よいと感じたり、秘密を共有する高揚感が伴ったりしても、次第に行為がエスカレートしていき逃げられなくなります。 もちろん、最初から恐怖や苦痛を感じたり、嫌悪感が湧いたりすることもありますが、きょうだいだからこその親しみの情もあり、被害を受けた子どもはさまざまな気持ちの間で引き裂かれそうになります。そうした混乱がきょうだい間の性暴力の特徴と言えます。だれにも言えないつらさを抱え続けることが、子どもの成長や発達に悪影響を及ぼします。 子ども間の性暴力は、遊びのふりをして始まることが多く、加害をした子どもも「相手は嫌がっていなかった」「自分は無理強いなんてしていない」と認識しています。事実を知った周囲の受け止め方も同じで、被害が明らかになっても、親が被害を受けた子どもがそんなに傷ついているとは思わないということもあります。 きょうだいからの性被害がわかった後に、大人が「怖かったね」と一方的に声をかけると、被害者を苦しめることになりかねません。 気持ちをそのまま受け止める すでに述べたように、被害者の心情はとても複雑です。「怖い」と思えなかった自分を責めたり、相手のすべてが嫌いなわけではない自分をわかってもらえないと感じたりして、性被害を受けたことを認められなくなってしまいます。 周囲が子どもの性被害を知ったときには、被害の訴えを信じてきちんと聴くことが何よりも重要です。被害者の気持ちや状況を勝手に決めつけてはいけません。どんな気持ちだったのかをそのまま受け止めます。 もし、幼い子どもが「おもしろかった」「興味があった」と感じたとしても、それはごくふつうのことです。行為の意味がわからないのですから、同意したわけではありません。相手の行動はルール違反だったことを、丁寧に説明していくことが大切です。 被害を受けた子どもを責めるのではなく、打ち明けてくれたことを十分にほめながら、これからの安全な生活に向けた話をわかりやすく伝えるといいと思います。 加害者が兄のときは、親に期待をかけられた兄が立場を利用して加害をする場合や、親が妹をひいきしていると感じて嫉妬し、妹を痛めつけようと加害をする場合などがあります。そもそも、家庭できょうだいの扱いが違ったり、差別があったりすることが多いです。 身近な関係性の中での性暴力は、性的な画像を見せる、体を見る、性器に触る、性器を入れるというように、徐々に段階的に進むのが一般的です。 また、お菓子をあげたり、ゲームで遊んだりするご褒美によって、少しずつ手なずけていく「グルーミング」という方法が用いられます。それによって被害者は断りにくく、被害を打ち明けにくくなります。突然襲われて身がすくむという状況とは異なる逃げにくさがあります。 理解してくれる人がいるかどうか また、家庭では、親が「お兄(姉)ちゃんの言うことを聞きなさい」などと言うことも多く、ふだんからの上下関係によって、年少児が被害に遭いやすくなるともいえます。 いとこからの被害は、きょうだい以上に事実がもみ消されてしまいがちです。我が子の被害がわかっても、問いただすべき相手が親戚となると、親はなかなか立ち向かえません。ときに、親戚づきあいをやめるほどの覚悟が必要になるからです。 そのため、子どもも、いとこからの被害はなかなか親には言えません。打ち明けたら、親を困らせるのがわかっているからです。同時に、言えないことで親に秘密を持っているという罪悪感も抱きます。 きょうだい間であれ、いとこからであれ、その性暴力だけが単独に存在するのではなく、家族や親族の中でネグレクトや虐待、主従関係といったいろんな形の暴力が重層的にあり、そこで子どもへの性暴力が起こりうると認識する必要があります。家庭内の性暴力が、世代を超えて脈々と続いていることも珍しくありません。 子は親の反応にさらに傷つく 大人自身が育ってきた家庭や生活環境にさまざまな暴力があると、「それぐらいのことはよくあるもの」「自分は我慢してきた」などと考えがちです。大人が傷ついたままでは子どもを守ることはできません。性被害は、受けた暴力だけでなく、その後の周りの対応が心の傷に大きく影響します。被害者にとって自分を信じて理解してくれる人がいるかどうかが重要です。 我が子が性被害を受けたという事実を受け止めるのは、親にとっては難しいことです。ショックを受けるのは当然です。悲しみや心配のあまり、つい「どうして逃げなかったのか」と子どもを叱ってしまうこともあります。早く元気になってほしくて「忘れなさい」と声をかけてしまう親もいます。我が子の性被害は親自身にとってもなかったことにしたいほどのつらい出来事ではありますが、子どもはそうした親の反応に、さらに傷ついてしまうことを知っておいてほしいです。 家族や親族の中で性暴力が起きたときは、家族も支援を受けるタイミングだと考え、児童相談所などの専門機関に相談してください。被害者を守るだけでなく、加害をした子どもへの教育やケアをする上でも、家族だけで抱え込まないことが極めて重要です。 「自分が悪かった」と自責の念に苦しむ被害者の子どもには、何度でも「あなたのせいではない」と丁寧に言い続ける必要があります。「言ってくれたおかげで、こうしてサポートを受けられる」「加害した子どももルール違反だと学べる」など、被害者の勇気ある行動が社会的にも価値のあることだと伝えることも回復に役立ちます。 親が本気で自分を守ろうとしてくれたと思えた子どもは「自分は大事にされる、価値のある子だ」と感じることができます。親にとって、家族や親族の中で起きた性暴力に対処するのはとても負担が大きいことです。それでも、結果がどうであれ、親が本気で自分のために動いてくれたかどうか、子どもはよく見ています。 社会の中にあるさまざまな暴力やハラスメントに鈍感だと、子どもの性被害に気づくことはできません。子どもへの性暴力に取り組んでいくには、大人自身が身近な暴力やパワーの使い方にも敏感になることが欠かせないと考えます。(編集委員・大久保真紀) ご意見・感想はseibouryoku@asahi.comへお願いします。 子どもへの性暴力 第6部⑥ Source : 社会 – 朝日新聞デジタル
公安警察の活動はどこまで許されるのか 岐阜地裁で21日判決
岐阜県大垣市での風力発電施設建設をめぐり、県警大垣署に個人情報を収集され、事業者に提供されたのは違法として、住民4人が国と県に国家賠償などを求めた訴訟の判決が21日、岐阜地裁で言い渡される。 治安やテロ対策を担う公安警察の活動実態が明るみに出た珍しい事例で、裁判所の判断が注目される。 「なぜ一市民である私の行動… この記事は有料会員記事です。残り1398文字有料会員になると続きをお読みいただけます。 Source : 社会 – 朝日新聞デジタル
全国に六つの「ねこ」の駅 22年2月22日は記念ニャ~場券販売も
2月22日は「ニャン・ニャン・ニャン」で「猫の日」。さらに2022年の今年は「22年2月22日」となり、五つの「ニャン」が重なる。駅名に「ねこ」が含まれる駅が、相次いで22日の記念乗車券の発売を決め、好評だ。 静岡は「かわねこやま」駅 SLやきかんしゃトーマス号の運行で知られる静岡県の大井川鉄道は、同県川根本町にある「川根小山(かわねこやま)」駅にちなみ、「22年2月22日」の日付が入った同駅の入場券と、千頭駅からの片道乗車券をセットにし、オンラインショップで販売している。 2月2日に発売すると全国から注文が相次ぎ、2日間で予定の300部を完売。その後2回増刷し、17日現在、計1千部まで伸びている。広報担当の山本豊福さんは「世にネコ好きが多いと知ってはいたが、反響の大きさに驚いた」。 台紙のネコのイラストや、ネコと魚と肉球をあしらった硬券の地模様は、女性社員らが描いた。予約特典でネコや駅標の缶バッジも付け、1千円(送料別)。 川根小山駅は1959年に開… この記事は有料会員記事です。残り686文字有料会員になると続きをお読みいただけます。 Source : 社会 – 朝日新聞デジタル
プラモ再利用したガンダム頭部、横浜に登場 みなとみらいでイベント
土居恭子2022年2月20日 10時30分 【神奈川】今年3月までの予定で横浜港・山下ふ頭(横浜市中区)に設置された「動くガンダム」の公開が、来年3月まで延長されたことを記念したイベント「GUNDAM PORT YOKOHAMA」が19日、始まった。 西区のランドマークプラザには、プラモデルの枠を再利用してつくったガンダムの頭部や、「機動戦士ガンダム」最終話の名場面「ラストシューティング」を再現した高さ約17メートルのバルーンが登場。藤沢市から親子で訪れた橋本悠生さん(8)は幼稚園のころからガンダムのファンといい、「すごくかっこよくて思い出に残る」と目を輝かせた。 記念イベントは3月13日まで。みなとみらい21地区などで、展示やスタンプラリーも企画されている。(土居恭子) Source : 社会 – 朝日新聞デジタル
名古屋伝統の「ひきずり鍋」 鶏料理店がこだわった三位一体の味
名古屋で「ひきずり鍋」といえば、鶏肉のすき焼きを指す。大みそかに食べて、「過去を引きずらないように」との願いをこめる――というのは、今は昔になった。 「ほとんど見かけない料理になってしまった」。鶏肉卸問屋が母体の「名古屋コーチン・旬菜一凰 本店」統括店長、春名克紀さん(46)は残念がる。牛肉のすき焼きが広まると、食卓から消えていったという。 実は名古屋市で生まれた春名さんも、一度も口にせずに育った。2007年に店を開くにあたり、「郷土に伝わる鶏料理を出さないわけにはいかない」と考えた。だが、試しにつくって食べてみると、しっくりこない。牛肉のすき焼きと同じ割り下を使っていたためだった。 みりんや砂糖の量を調整し… この記事は有料会員記事です。残り312文字有料会員になると続きをお読みいただけます。 Source : 社会 – 朝日新聞デジタル
愛猫家の月亭遊方も ネコ一色の落語会 2・22に天満天神繁昌亭で
米田優人2022年2月20日 8時00分 「ニャンニャンニャン」にかけた2月22日の「猫の日」に、ネコにちなんだ演目ばかり集めて披露する落語会が、大阪市の寄席・天満天神繁昌亭で開かれる。 ネコ好きの落語家ら12人でつくる「はにゃしか倶楽部」が企画し、今年で12回目。今回は「猫とさいころ」や「禁猫関所」と題した演目のほか、講談や芝居を披露。多くが書き下ろした作品だという。さらに、落語家が、はさみを使って猫の形に紙を切る「猫紙切り」に挑むコーナーもある。 呼びかけ人の月亭遊方(ゆうほう)さん(57)は、黒ネコの「ソロモン」(オス、8歳)と暮らす。約8年前、同じくネコ好きの妻が、仕事先の奈良県でブリーダーから紹介され、「一目ぼれ」。生後3カ月から飼う。最初は鳴き声が出ずにおとなしかったというが、慣れてくると、家中を走り回ったり、ひざにのったりするように。「元気がいいし、甘えてくれるのがかわいい。稽古をそっと見守ってくれるときもある」 今年の猫の日は、西暦も含めて「2」が6個そろう特別な日。コロナ禍で落語界の苦境が続くなか、遊方さんは「猫の手を借りて、ニャンとか盛り上げたい」と意気込む。 落語会は、午後6時半から。前売り3千円、当日券は3500円。来場者には、ネコをあしらった特製のポストカードをプレゼントする。ネコは入場できない。問い合わせは、天満天神繁昌亭(06・6352・4874)へ。(米田優人) Source : 社会 – 朝日新聞デジタル
ウニ3千個をハンマーでつぶす漁師 まるで砂漠、コンブの海に異変
1月28日朝、岩手県大槌町の小久保海岸。新おおつち漁協の芳賀光さん(47)が重いボンベをつけて潜った海には海藻がなく、砂漠のようだ。岩礁にはウニばかり。磯焼けだ。 手当たり次第にウニをハンマーでつぶす。芳賀さんらダイバー3人、2時間で3千個。藻を食べつくし、ほとんど身は入っていない。海中の延長600メートルのロープも補修した。養殖コンブの芽を刺し、2カ月前に張ったものだ。「ウニ退治」は今季16回目。前日にあった研究報告会で、春から夏にかけてはウニ漁に精を出す芳賀さんが、藻場を守るための取り組みを訴えた。「コンブを植えても、翌年潜ったらほとんど残っていない」 ウニをハンマーでつぶす芳賀光さん=2020年10月、岩手県大槌町の小久保海岸(三陸ボランティアダイバーズ提供) 岩手県によると、2015年に沿岸で2300ヘクタールあった藻場が、20年度には1600ヘクタールほどまで減少。東日本大震災前の3500ヘクタールと比べると半減した。 アワビのえさを食べ尽くすウニ 東京大学大気海洋研究所国際沿岸海洋研究センター(大槌町)の早川淳助教らが震災前後の大槌湾で、ウニとアワビの密度を調べたところ、ともに津波で稚貝が流れたが、その後、ウニがアワビとの競争に勝って個体の密度が高くなったという。アワビのえさとなる海藻をウニが食べ尽くし、藻場は衰えてアワビはとれなくなる。そんな循環に陥っている。 ウニだけがいて海藻が絶滅した「磯焼け」の岩礁=2022年1月28日、岩手県大槌町の船越湾、東野真和撮影 アワビの漁獲高は岩手県が全国一だが、岩手県漁連によると共販実績は09年度が413トンだったのが2021年度は81トンに。この5年間で4割以下になった。 岩手県は昨年3月、通称「藻場ビジョン」を策定し、5カ年計画で藻場再生をめざす。水産研究・教育機構水産研究所沿岸生態系寒流域グループの高見秀輝グループ長は「現状でウニは1平方メートルあたり10個ほど。これを1~3個まで減らさないとアワビは回復しない。コンブは発芽する1月下旬ごろにウニに食べられやすく、この時期にウニを駆除することが重要だ」と話す。 藻場が衰え、焼け野原のようになる「磯焼け」が広がっています。100年前から各地で直面していますが、たくましいウニと地球温暖化に漁業者は新たな苦難を強いられています。ウニをつぶし、コンブやアワビを守るーー。後半では、「拾いコンブ」の産地からリポートします。 ■素手でとれる天然コンブも危… この記事は有料会員記事です。残り1790文字有料会員になると続きをお読みいただけます。 Source : 社会 – 朝日新聞デジタル
山で街で「捜索」を手助け 福岡のベンチャー発「ココヘリ」広がる
福岡市のベンチャー企業が生み出した安全技術が、全国に広がっている。遭難した登山者らの居場所を電波で知らせて捜索に役立てる「ココヘリ」。キーホルダー型の小さな発信器を身につけておき、もしもの時にはヘリコプターなどから高精度で位置を特定する。全国35都道府県の警察や消防が導入ずみ。スキー客や子どもなど、活用の対象も拡大中だ。 旧九州松下電器(現パナソニックシステムソリューションズジャパン)の元社員らで2011年に設立したオーセンティックジャパン(福岡市中央区、久我一総社長)が開発し、16年にサービスを始めた。登山時に衣服やリュックサックに装着する発信器は、4×6センチの薄型で20グラム。1度の充電で2カ月は動く。電源の入れ忘れを防ぐため、スイッチ類はない。 二つの電波が出ている。一つは長距離用で、16キロ離れた場所から手のひらサイズの専用受信機でキャッチする。捜索の要請があれば発信器のIDで位置を確認。方向も分かる。 もう一つは近距離用で、パソコンなどに使われるブルートゥースの電波を使う。見晴らしがよいと100メートル以上の距離でもスマホで受信できるので、街中で家族などが捜すこともできるという。「山岳遭難だけでなく、子どもや高齢者の道迷いにも備えられる」と、マーケティング担当の高柳晃さん。 どちらの電波も誤差は数メートル。利用者数は4万人を超え、全国各地の警察や消防も捜索に備え専用受信機を導入。実際に活用される事例も増えてきた。 鳥取県の大山(標高1729… この記事は有料会員記事です。残り747文字有料会員になると続きをお読みいただけます。 Source : 社会 – 朝日新聞デジタル
散歩中の置き去り「保育士だけの責任ではない」 現場の切実な事情
保育園の散歩で行った公園で、子どもが置き去りにされてしまうケースが相次いで報告されています。 元保育士で、現在は大阪教育大の教授(保育学)である小崎恭弘さんによると、置き去りを防ぐための安全対策は保育現場の「基本のき」。一つ間違えば命に関わり、「あってはならないこと」だといいます。 とはいえ、現場の保育士だけの責任とはいえない側面も。背景には、保育現場の事情もある、と指摘します。 何が問題なのでしょうか。詳しく聞きました。 居場所の把握は「保育の基本」 大前提として、散歩などの園外活動で置き去りが起きてしまうのは、「あってはならないこと」です。 保育の基本は「子どもの安全を確保すること」。そのために必要な人数確認がおろそかになっていた証拠が、置き去りだからです。 どんな事情があっても、保育士は子どもたちの居場所を把握して安全を確保しなければいけないし、点呼も徹底しなければいけないというのは、イロハの「イ」です。 保育は、単に子どもを見ていればいいというものではなく、「安全を保障しながら子どもの育ちを支える」仕事です。たやすいことではありません。 雨が降ったり、途中でけがをする子がいたり、途中でけんかが始まったり……散歩中には、さまざまなアクシデントが起こりえます。子どももおとなしくしてくれるばかりでなく、一瞬たりとも気は抜けません。 また、置き去りがあったあと、子どもを無事に保護できたからといって、それを単なるヒヤリハットで片付けてはいけないと思います。無事だったのは幸運が重なっただけで、居場所を見失うということは、命の危険に直結するんだという認識が必要でしょう。 僕が現場で保育士として働いていたときは、「散歩は命がけ」という思いを持って外に連れ出していました。 こうした認識は、ほとんどの保育士も「基本」として知っているはずです。むしろ、「当たり前すぎて、あえて意識して呼びかけたことはない」という園もあるかもしれません。 置き去りが起きる保育現場の事情 では、なぜ置き去りは起こってしまうのか。 これには、保育現場が恒常的に人手不足の状態にならざるを得ないことなどが影響していると思います。 1人の保育士が何人の子どもを見られるかを定めた国の配置基準は、日本は諸外国に比べて条件が悪いことが知られています。 2歳児は保育士1人で6人、3歳児になると1人で20人の子どもを見られるとされていますが、この人数を、さらに園外で見るのは、たとえプロでも厳しいと思いませんか。 今の保育現場では、書類の記入や保護者対応、そしてコロナ対策など、保育士に求められるタスクがどんどん増えています。ただでさえ少ない人数のなか、現場の負担は重くなっているのが実態です。 さらに、保育現場は離職率が高く、なかなか経験豊富な人材が集まりにくい事情もあります。 こうしたさまざまな事情が重なり、エアポケットに入ってしまうような形で「置き去り」が起きてしまうのではと思っています。 保育士だけの責任ではない もちろん、どんな理由であれ、置き去りはあってはならないことには変わりありません。 ただ、その背景にある事情については、保育士だけの責任ではないのです。 保育の安全を巡っては、うつぶせ寝をさせないことや、プールの安全管理、そして食の安全に関する安全確保の呼びかけは、だいぶ浸透してきたように思います。 置き去りも、単なる「ヒヤリハット」ではないことを踏まえ、今後は全国的にも事例共有を進め、注意喚起を徹底的に行うなどの対策が求められていくでしょう。(聞き手・中井なつみ) Source : 社会 – 朝日新聞デジタル