会員記事 米田優人、森下裕介2021年6月22日 10時24分 学校法人森友学園(大阪市)への国有地売却をめぐる財務省の公文書改ざん問題で、国は、自死した同省近畿財務局職員赤木俊夫さん(当時54)が改ざんの経緯を記したとされる「赤木ファイル」を妻・雅子さん(50)側に開示した。雅子さんの代理人弁護士の事務所に22日、郵送で届いた。 国が開示したファイルは約500ページで、コピー用紙がひもでとじられていた。俊夫さんが、改ざん問題について書き残したとみられる「備忘記録」や、省内でやりとりしたメールの写しなどがあった。中身を確認した雅子さんは「夫の気持ちを考えると、どんなにつらい思いをして残したのだろうと胸がつまる思いだ」と語った。 雅子さんは昨年3月、俊夫さんが自死したのは改ざんを強いられたからだとして、国と佐川宣寿(のぶひさ)元同省理財局長に計約1億1200万円の損害賠償を求め、大阪地裁に提訴した。 雅子さん側は、ファイルの内容が明らかになれば、当時の改ざん指示の流れや俊夫さんが受けた精神的苦痛の立証につながると主張。ファイルの存在を明かした俊夫さんの元上司の音声データを証拠として提出したほか、今年2月、国にファイルの提出を命じるよう大阪地裁に申し立てた。 これに対し国は、財務省内で改ざんが行われたことについては争いがないとし「ファイルは裁判に関係がなく、存否について答える必要がない」と説明。一方で国会では「訴訟に影響する」として、野党側の開示要求に対し、存否についての答弁を避けてきた。 だが、国は今年5月、裁判所の命令を待たずに、任意で提出を検討するよう地裁から要請があったことを受け「真摯(しんし)に対応する」と表明。求められていた文書を特定できたとして、次回の口頭弁論期日(6月23日)には俊夫さんが改ざんの経緯を時系列にまとめた文書や、財務省理財局と近畿財務局の間でやりとりしたメールの記録などを任意で提出すると文書で回答した。また、マスキング処理(黒塗り)は「できる限り狭いもの」とする意向を示していた。(米田優人、森下裕介) ■公文書改ざんと赤木ファイル… この記事は会員記事です。無料会員になると月5本までお読みいただけます。 残り:474文字/全文:1341文字 Source : 社会 – 朝日新聞デジタル
山にポツンとオリ、中にはカラス10羽 駆除担当の苦悩
依光隆明2021年6月22日 10時30分 霧ケ峰のふもと、諏訪市の山中に大きなオリが設置されていた。中に約10羽のカラスがいて、大声をあげて飛び回っている。その下には動物の白骨体。まるで怪奇映画に迷い込んだような、怪しげな雰囲気だ。 上部に侵入口が開いていて、そこからたくさんの金属棒がぶら下がっている。入ることはできるが、出ようとしたら金属棒に邪魔されて出られない、という仕組みらしい。設置者を記したプレートが取り付けられていた。名義は諏訪市長。市農林課の電話番号が書かれている。 「カラスの被害がでていまして、駆除しなければいけないということで設置しました」。市農林課の担当者が説明する。「市で作りました。富士見町にあるのを見に行って。設置して2年になります。エサ? 駆除したシカです」。オリは4メートル四方。高さは3メートルほど。 同課によると、オリに入ったカラスの処分は地元の猟友会に任せているという。昨年の駆除数は他の手段も含めて27羽。同課は「オリを増やしたいとは思うんですが、設置を嫌がる方も多くて……」。場所が見つからず「困ってあそこへ持っていった」と明かす。 同市では山をねぐらにするカラスが朝から夕方まで諏訪湖畔やJR上諏訪駅周辺で飛び回り、フン害に関する市民からの苦情が出ている。猛禽(もうきん)類を使って追い払う作戦なども行ったが、成果は上がっていない。(依光隆明) Source : 社会 – 朝日新聞デジタル
五輪に足りない議論は? 野村修也さんがすすめる観戦法
東京五輪の開幕まで1カ月ほどになりました。これから注意すべきことや、できることは何か。中央大学法科大学院教授で、危機管理に詳しい弁護士でもある野村修也氏に話を聞きました。 開催前提に議論すべきだった ――東京五輪が近づいてきました。 私は半年以上前から、開催を前提にきめ細かに感染リスクの制御方法を議論すべきだという立場をとってきました。 日本側からオリンピック・パラリンピックをキャンセルするのは、契約上きわめて難しいためです。 しかし、開催に反対する声が多く、リスクを議論することそのものがタブー視されてしまいました。 ぎりぎりになって「何も考えていません」というのが一番危ない。まさに今、危険な状況になっている気がしています。 契約への考え、甘い日本人 ――開催を前提に議論すべきだったと考えたのはなぜですか。 国際社会では、契約の順守が厳しく求められます。しかも国際オリンピック委員会(IOC)が長年、各国と結んできた契約は、開催国に不利な仕組みになっていて、そう簡単にはやめられません。 どうしてもやめたいなら、IOCが手にするはずだった放映権料などを開催国が全額負担しなければなりません。戦争がおきるなどよほどのことがない限り逃れられません。 日本人の契約への考えは、どちらかと言うと甘い。「何とでもなるだろう」みたいな感覚があります。 しかし、多様な人々と暮らす国々では、契約が社会の安定をさせているため、いったん結んだ契約から逃れようとすると、社会的信用を大きく損なうことになってしまいます。 だからこそ開催を前提に、どうやって自分たちを守っていくか、真剣に議論をしなければいけなかった。今からでも遅くないので、リスク管理の仕方を議論すべきだと思います。 ■終了後の生活も管理を… Source : 社会 – 朝日新聞デジタル
異例ずくめの土地取引 さらなる疑惑が浮上…でもまさか
【動画】ザ・解説「森友学園公文書改ざん問題」とは 「森友問題」を追う 記者たちが探った真実② 国有地が大幅に値引きして売られた森友学園問題で、朝日新聞が第1報を報じたのは2017年2月9日だった。その後、政府側は国会で野党から追及されていくことになった。 Apple Podcasts や Spotify ではポッドキャストを毎日配信中。音声プレーヤー右上にある「i」の右のボタン(購読)でリンクが表示されます。 国会で政府側として主に答弁に立ったのは、財務省の土地取引担当のトップである佐川宜寿・理財局長(当時)だった。隣の土地の10分の1の価格で売られていた理由についてこう答えた。 「この土地にはごみがたくさん埋まっていて、その撤去費用にお金がかかる」 「もともと鑑定価格は9億5600万円だったが、ごみの撤去費用に8億円あまりかかる。その撤去費用を差し引いて、1億3400万円になった」 本当に8億円も撤去費用がかかるのだろうか。このごみの量の積算については、後に会計検査院が「根拠が不十分」と指摘した。 そして2月17日、安倍晋三首相の口から飛び出したのが、あの答弁だ。 「私や妻がこの土地取引に関係していれば、首相も国会議員もやめる」 「神風が吹いた」 驚きの証言 拡大する衆院予算委で答弁する安倍晋三首相。森友学園への国有地売却について「私や妻が関係していれば、首相も国会議員も辞める」と述べた=2017年2月17日午後、岩下毅撮影 断言だった。野党の追及は勢いを増した。 国会では、もう1人の当事者、森友学園の籠池泰典理事長(当時)の証人喚問が行われた。偽証をすると罪になるという重い場で、籠池氏はこの大幅値引きについて驚きの証言をする。 「神風が吹いた」 この取引の間に、籠池氏は安倍氏の妻の昭恵氏側に相談していた。昭恵氏の秘書のような役割をしている政府の職員が、この土地取引について財務省に問い合わせをしていたという。 「昭恵さんの名前で物事が動いたんだろう」 籠池氏はこんな見方を示した。野党側は、財務省が昭恵氏の存在、また安倍氏に忖度(そんたく)して値引きをしたんじゃないか、という追及をさらに強めていくことになった。 「少なくとも通常ではない取引だったんじゃないか」 その謎を解くべく、朝日新聞は大阪・東京の社会部で合同の取材班をつくった。東京の社会部は国会や財務省周辺、大阪の社会部は森友学園や土地取引に関わった関係者らを取材していくという役割分担。当時東京社会部でこの取材班を仕切った羽根和人デスクはこう振り返る。 拡大する日本維新の会の下地幹郎氏の質問に答える森友学園の籠池泰典氏=2017年3月23日午後4時48分、国会内、岩下毅撮影 浮上した改ざん ひょっとして財務省が? 「薄皮をむくような感じで事実を積み重ねていかなければいけないなと思っていた」 取材を進める中で、まずはこの土地取引が「特例」というふうに財務省では言われていたことが分かった。 また、通常の国有地売却は一括払いが基本にもかかわらず、この土地の場合は異例の分割払いを認めていることも明らかになった。 そうした取材の中で、ある疑いが浮上した。 「財務省が公文書を改ざんしたのではないか」 公文書は民主主義の基本だ。公文書を元に国会審議が行われ、行政は全て公文書で動いている。それを改ざんするということは、行政をゆがめ、国民にうそをつくことと同義と言える。 拡大する辞意を伝えた後、報道陣の取材に答える佐川宣寿氏=2018年3月9日午後9時11分、東京・霞が関、越田省吾撮影 財務省は、国の中枢を担う「省庁の中の省庁」といわれる。その財務省が本当にその公文書を改ざんするのだろうか。 国会答弁に立っていた佐川氏の態度はかたくなで、説明に消極的だった。その姿勢の不自然さを考え、「改ざんはひょっとしてあり得ない話でもないと思った」と羽根デスクは言う。 取材班はこの後、解明のために、この土地取引に関する膨大な資料と向き合うことになる。どの文書のどの部分が、どう改ざんされたのかを特定する、根気のいる作業だった。 さらに取材を進め、改ざんされたことを証明するだけの材料がそろった。取材で得た情報を、財務省に直接「当て」にいくという段階にまで至った。 ◇ 朝日新聞が改ざんの情報をつかんだ経緯や根拠について、羽根は「一定程度説明責任はある。一方でニュースソースは守らなければいけないし、何を判断材料にしたのかは、言えないものもある。情報源を秘匿できないのならば、ジャーナリズムが成り立たない」と話す。 情報源が分かれば、政府の犯人捜しが始まったり、その人の身に危険が起きたり、処分されたり、ということが起こりうるからだ。これは朝日新聞だけではなくて、全てのメディアがそうしている不文律だ。 朝日新聞は政権に批判的だからそういうあら探しをしているんじゃないか、との疑念もぶつけられるが、羽根はこうも言う。 「最初から疑いを持ってやっているわけでなくて、いろいろな事実、情報が出てくる中で、疑問が出てきたから、取材をする。イデオロギーのようなものはむしろ報道の邪魔で、色眼鏡で見ると、真実は見えなくなるんですね。そういったものは極力排して、事実を公平な目で見ることをしないと、特に調査報道は成り立たない」(聞き手・神田大介、構成・岸上渉) 拡大する財務大臣室に入る佐川宣寿・国税庁長官=2018年3月9日午後7時17分、東京・霞が関、越田省吾撮影 Source : 社会 – 朝日新聞デジタル
「保守」自認の市議、それでも「選択的夫婦別姓」賛成の理由
昨年3月、自民党系会派にいた石川県野々市市の梅野智恵子市議(45)が、「選択的夫婦別姓」の導入を求める意見書の採択に賛成し、その3カ月後、会派から除名された。今も保守を自認する梅野氏。自民系会派でただ1人賛成したのは、なぜか。最高裁が6月23日に選択的夫婦別姓に関する憲法判断を行う。次期衆院選にも影響を与える節目を前に、現在、無所属で活動する梅野市議の思いを聞いた。 「思想的には今も保守」 今年の6月15日の野々市市議会の一般質問。梅野氏は、性的少数者などのカップルを公的に認める「パートナーシップ制度」を導入するよう主張した。これに対し、粟貴章市長は「しっかり取り組んでいきたい」と応じた。 梅野氏は現在、無所属の1人会派「みのりの会」で活動する、議会に2人しかいない女性市議の1人だ。 梅野氏はもともと、「女性や子育て世代が活躍できる環境づくり」や「多様性のある社会の実現」をめざし、2019年に無所属で立候補し初当選。自民党系会派に入った。学生時代には同党議員の選挙活動を経験。「思想的には今も保守」という。 ところが、昨年3月の議会で、共産党の市議が提出した「選択的夫婦別姓」の導入を求める意見書の採択に、自民系会派でただ1人賛成。その3カ月後、自民党野々市支部の総務会で除名された。 記事後半で、梅野氏が「選択的夫婦別姓」に賛成した理由について語ります。「今も保守」という梅野氏を全会一致で除名にした自民党支部の言い分。「バランスを欠いている」(専門家)と指摘される除名騒動の背景にあるものとは? ■起立賛成「何の迷いもなかっ… この記事は会員記事です。無料会員になると月5本までお読みいただけます。 残り:996文字/全文:1564文字 Source : 社会 – 朝日新聞デジタル
京大、慶大、ICU合格のひけつは? 総合型経験者語る
総合型選抜(旧AO入試)での大学受験を考える高校生たちにとって、9月の出願を控えた夏休みは勝負の時期。どのように志望校を決め、夏をどう過ごしたのか。この春、入学した大学1年生に聞いた。(柏木友紀) 「夏休みはどう過ごしたらいいでしょうか」。今月半ば、総合型選抜の指導に定評のある早稲田塾で、高3女子がクラス担任助手の大学1年生に質問していた。 慶応大法学部が第1志望で、「AI(人工知能)裁判官について関心があり、裁判員制度を研究したい」という。夏休みは裁判員経験者らによる座談会へも参加を予定する。 「募集要項などにある学部長からのメッセージを、繰り返し読むといい。目指す学術的な方向性や、どんな学生が欲しいかなどのヒントが必ずあります」。アドバイスするのは同塾OBで今年4月、慶応大の湘南藤沢キャンパス(SFC)にある環境情報学部に入学した横山景星(けいせい)さんだ。「同じように法学部を目指す仲間と、ディスカッションを深めるのもオススメです」 部活に夏期講習、学外活動など時間のやりくりに悩む高2男子には、こう助言した。「僕も高2の夏休みが一番時間的に大変だった。夏休みが終わった時にどんな自分になりたいか、目標を定め、そこから逆算して優先順位を付けるといい」 慶応大SFCへ、リポート70ページを提出 横山さんがSFCへの進学希望を固めたのは、三田国際学園高(東京都世田谷区)1年の時。幼い頃から昆虫や自然が好きで、メディカルサイエンステクノロジーコースに在学し、昆虫や微生物の分解能力などに関するバイオ研究を進めていた。SFCが山形県鶴岡市に持つバイオ研究の拠点での活動に憧れてもいた。 高2の夏は積極的に課外活動に挑戦。「自分の可能性を広げてみようと思った時期でした」。鶴岡市で慶応大などが主催する高校生バイオサミットに参加し、カミキリムシと微生物の研究で審査員特別賞を受賞した。 香港で開かれた早稲田塾の夏のプログラムにも参加。「逃亡犯条例」改正案をきっかけとする学生たちの抗議活動のまっただ中で、「自由」や「民主主義」について考察を深め、キャンパス内の写真や、激化するストライキで1面に白紙を掲げた現地の新聞などを持ち帰った。加えて10月の文化祭に向け、実行委員長として準備を重ねながら、リーダーシップ論にも関心を広げた。 順調に見えたが、高3の夏休みを前にした昨年6月、迷いが生じた。コロナ禍で学校も塾もオンライン授業が続き、論文などを読み進めるうちに、「バイオ研究者の道を進むには、自分は学術的視点が足りないのではないか」と悩んだ。 7月からは全く違う視点で自… Source : 社会 – 朝日新聞デジタル
酒解禁、客まばらのアメ横 「客足戻ればいいけど」
緊急事態宣言が21日解除され、都内の飲食店では酒類の提供が条件付きで可能になった。しかし、上野・アメ横を歩くと、人通りはまばら。飲食店からは「休業中に客が離れてしまったのでは」と心配する声も聞こえてきた。 「まだ初日、月曜日だからだと思いたいが」。居酒屋の40代の男性店長はつぶやいた。酒類が提供できる午前11時から、店先に14人分の座席を準備したが、2時間で来店客は2人だけだった。 男性店長によると、100メートルほど離れた店では、宣言期間中も酒を提供していた。この日も昼からほぼ満席で、「ああいう店にお客さんが集中している気がする」とぼやく。「客足が戻らなければ、営業しても赤字になってしまう。ここで巻き返さないと。踏ん張りどころです」 酒の提供は午後7時までなどの条件が残る。大通りから離れた10席ほどの居酒屋の男性店長(25)は「これからが本番という時間帯にお酒を出せないのでは意味が無い。『飲食店のみなさん、緩和してあげましたよ』という、政府や都のアリバイ作りなのでは?」と話した。 都が示す「客は同一グループごとに2人までで、90分以内」という条件にも疑問の声が上がった。焼き鳥屋の店長(39)は「3人で入ってきたお客さんに『帰って』とは言えないよ。律義に守る店があるとは思えないけどなあ」。 「お酒の提供はしておりませ… この記事は会員記事です。無料会員になると月5本までお読みいただけます。 残り:812文字/全文:1385文字 Source : 社会 – 朝日新聞デジタル
子どもの接種、丁寧な説明重要 「緊張から失神」指摘も
職場や大学での新型コロナウイルスワクチンの接種が21日から本格的にはじまった。今後、12~15歳の子どもに対しても接種が広がっていく見通しだ。高齢者に比べると感染したときに重症化する可能性は低いとされるが、接種するかどうかをひとり一人が判断するためにも、有効性と安全性の正確な情報発信が重要になる。 日本で現在、接種に使われているファイザー製とモデルナ製は、ともに高い有効性が報告されている。安全性にも大きな問題は指摘されていない。 ファイザー製の対象は当初16歳以上だった。12~15歳を対象にした追加の試験が行われ、ワクチンによって十分に免疫のしくみが刺激されていることが認められたため、6月1日からは12歳以上の子どもにも接種できるようになった。 ただ、接種後の痛みや発熱といった反応は、若い人ほど出やすいとされている。ファイザー製を接種した国内の医療従事者約2万人を調べた中間報告によると、37・5度以上の発熱や頭痛、倦怠(けんたい)感の頻度は、年齢が若いほど高まる傾向がみられている。 日本小児科学会「できれば個別接種が望ましい」 米国では、反応の種類にも年… この記事は有料会員記事です。有料会員になると続きをお読みいただけます。 残り:987文字/全文:1477文字 Source : 社会 – 朝日新聞デジタル
デジタル化、新聞の役割は 朝日新聞あすへの報道審議会
ネット上で誰もが意見を発信できる時代。言いっ放しのつぶやきがあふれ、あやふやな情報も駆けめぐっています。新聞社はニュースをどう届ければいいのでしょうか。朝日新聞が今月1日に開いた「あすへの報道審議会」で、パブリックエディター(PE)と読者、本社編集部門の記者らが意見を交わしました。 <パブリックエディター> ◇高村薫(たかむらかおる)さん 作家。「マークスの山」「土の記」など著書多数。1953年生まれ ◇山本龍彦(やまもとたつひこ)さん 慶応大法科大学院教授(憲法学)。1976年生まれ ◇小松理虔(こまつりけん)さん 地域活動家。福島県いわき市を中心に活動。1979年生まれ ◇小沢香(おざわかおり) 朝日新聞社員。前・フォーラム編集長。1966年生まれ 記者の顔見せ、読者と考える 小松PE 青沼ハンナさん(読者) 今、大学1年で、紙の新聞のほかにヤフーニュースもチェックする。グローバルな視点を身につけたいと思い、ユーチューブで海外メディアの動画も見ている。同世代の友人はSNSで情報を得ているようだ。 中野令子さん(読者) 証券会社に約17年間勤め、現在は子育てをしながら、お金をテーマにウェブ記事を書いている。スマートニュースなどで経済メディアの記事を中心に、発信元を確認しながらみている。周囲の人たちは、あまりニュースに関心がないようだ。 伊木緑・東京社会部記者 私はツイッターやオンラインイベントでも発信している。2年前、スポーツ庁が女性の運動を促すキャンペーンで「スポーツをせずにボーッと生きてしまう女性」とうたった。仕事や家庭で忙しい女性は運動する時間もないのに、と違和感を持ち、朝日新聞のウェブメディア「withnews」で「ボーッと生きてるわけじゃない」と書いたら、予想以上に読まれた。「おかしいと思うことに正面からおかしいと言う。これこそジャーナリズム」という読者からのコメントに目を開かされた。今はどんな記者なのかが読者に見られている。 高津祐典・文化くらし報道部記者 朝日新聞のユーチューブチャンネル「囲碁将棋TV」で対局の中継動画などを流している。ファンと記者がコメントを書き込み、リアルタイムで指し手に一喜一憂している。昨年10月に始め、現在の登録者は約2万5千人。20~30代のファンが多く、今までとは異なる読者とつながれている感じがある。 小沢香PE 記者は黒衣と言われてきたが、むしろ記者の違和感や気づきを伝えると、読む人それぞれの価値観に届くのでは。 伊藤大地・朝日新聞デジタル編集長 ネットメディアを経て昨年11月に入社した。購読料をいただき毎日届ける紙の新聞が水道のようなインフラだとすれば、無料ニュースがあふれる中でお金をいただくデジタル版はミネラルウォーターを売るようなもの。取材の過程を見せ、信頼される必要がある。 小松理虔PE 僕はSNSでニュースを見て、情報発信している。記者の顔が見えると朝日新聞の見え方が変わってくる。デジタル化は、記者が顔を見せて読者と信頼関係を作っていくきっかけになる。 ネットへの過剰反応、懸念 読者 拡大する読者2人と高村薫PEはリモートで参加した=2021年6月1日午後1時43分、東京都中央区、杉本康弘撮影 青沼さん 最近懸念しているのは、ネット上の話題をメディアが報じることで、さらに大きくなってしまうこと。競泳日本代表の池江璃花子さんにSNSで東京五輪開催に「反対の声をあげてほしい」との声が寄せられた時にも感じた。 中野さん 私が気になったのは、新型コロナウイルスの感染拡大で「東京脱出」というハッシュタグ(検索ワード)がツイッターで拡散されているという昨春の記事が、むしろ拡散をあおったとネットで話題になったこと。SNSでの拡散は怖いと感じた。 山本龍彦PE いずれも重要な指摘。一般的に虚構性の高いネットの情報をメディアが報じると、増幅することもある。「フィードバック・ループ」という現象だ。デジタル配信や紙面の計画を話し合う編集局の会議を先日見学した際、冒頭でネットのトレンドが報告されていたが、盛り上がりが本当に実在するのか、批判的な視点も必要だ。 伊藤 トレンドだけでなく、何が問題か、なぜ問題か、どうすればいいのかを報じてこそ、読んでもらえる記事になる。どう拡散するのかはツールを使えば分かり、情報の発信元も特定できる。こうした専門的な知識も必要だ。 小松PE SNSの時代に何か反論が出るのは当然で、発信者が想像できない部分もある。あとからでも検証し、課題や改善点を開示すれば信頼につながる。 山本PE より根源的な課題もある。ネット利用者の関心を引きつけることが経済的な価値を生む「アテンション・エコノミー」という構造の中でジャーナリズムはどうあるべきか。PV(閲覧数)を稼ぐ競争に組み込まれ、利用者の好む記事を選択的に出すと、特定の傾向の情報だけを見る「フィルターバブル」が生まれる。ニュースは本来、個人が見たい情報だけを届けるものではないはずだ。 前田直人コンテンツ戦略ディレクター ある程度は競わざるを得ない。まずは朝日新聞に触れてもらうことがニュース報道を見てもらうきっかけになる。新聞の発行部数は減り、デジタルでの挑戦が必要。ジャーナリズムは大衆と共に存在している。 時代の視座となる役目 高村PE 高村薫PE ジャーナリズムの基本は、個人的な関心事や興味と一定の距離を保ち、取材対象を相対化すること。デジタルなら何でも盛り込めるという考えから離れ、同時代の視座になる報道が求められる。 伊藤 変わらなきゃいけないことと、変わってはいけないことがある。デジタルは紙の新聞と異なり、読者がどこにいるか分からない。ジャーナリズムが社会に不可欠な公共財として機能し続けるには、より多くの人に接する努力をしないといけない。 高津 デジタル時代の記者の役割は、読者とつながり、コミュニティーを育て、新しい結びつきを生むことだと思う。記者が持つ「雑味」も読者と共有して輪を広げたい。討論しながら考えを深める「白熱教室」でおなじみの米ハーバード大のマイケル・サンデル教授と日本の若者の対話を企画し、記事を自分のツイッターアカウントに投稿したら、囲碁・将棋ファンが拡散してくれた。 高村PE 年配の読者はデジタルにアクセスせず、若い読者は新聞ジャーナリズムに興味がないかもしれない。色々な受け止め方が成立するのがデジタル時代の新聞社の生き残り方なのかと思う。ただ、個別のテーマで新たな読者を開拓することと、本来のジャーナリズムは姿の違うものだ。 正確な報道は社会的な使命 読者 野村雅俊PE事務局長 皆さんが考えるデジタル時代のジャーナリズムとは。 青沼さん 今年は衆院選があり、私は初めて投票する。若い世代が投票に行けば未来を変える可能性があると希望が持てる記事を書いてほしい。社会のデジタル化に昔ながらの選挙活動が合っているのかという視点の記事も面白いと思う。 中野さん コロナ禍という平常でない時こそ、報道機関には正確な情報を伝える社会的使命がある。新聞社は質の高い情報を提供するという安心感がある。 高村PE 新聞を毎日読み始めたのは小学校高学年の時、ベトナム戦争がきっかけだった。ジャーナリズムは世界を眺める窓、社会を見つめる窓。ネットには無限の情報があるけれど、東日本大震災など大変な事態が起きた時は信頼に足る窓が絶対に必要。新聞ジャーナリズムの役割は将来も変わらないが、質が保たれていることが大切だ。 取材過程の透明化、今こそ 山本PE 山本PE ニュースの重要性を組織的に議論し、専門的な観点で編集するのが新聞社の強み。今後は取材や編集の過程をもっと透明化しないといけない。 前田 朝日新聞デジタルは5月に10周年を迎えたのを機に、リベラルジャーナリズムの根幹として多様な視点を意識し、「多様性と未来」をキーワードにジェンダーなどの強化ジャンルを設けた。人の物語の背景に大きな社会問題が横たわっていることが分かる記事も配信している。 山本PE グーグルやフェイスブックのようなプラットフォーム企業が、我々の生活をコントロールする巨大権力となりつつある。メディアは情報技術の専門知識を高め、しっかり監視すべきだ。ただジャーナリズムは、刺激的なコンテンツがあふれるネット空間では、どうしても分が悪い。プラットフォーム企業にニュース使用料を求める仕組みなどが海外で議論されているが、ジャーナリズムを保護する制度を日本でも検討する時だろう。 高津 メディアを優遇する制度は理解してもらえるだろうか。どんな記者が発信しているのかといった透明性も高め、メディアの活動が必要だと思ってもらわないと。 伊藤 ジャーナリズムは人びとに必要だと理解してもらってこそ成り立つ。好みの情報に接するだけでは「知的健康」は保てない。例えば災害の現場でも、1社だけでなく、いろんな問題意識を持ったカメラやペンの記者がいることが大事。多様な現場取材ができる環境を残していく責任が我々にはある。 拡大するあすへの報道審議会の会場。感染症対策を徹底して開催した=2021年6月1日午後1時42分、東京都中央区、杉本康弘撮影 小松PE 福島のテレビ局記者だった頃、権力監視や批判精神を持つことがジャーナリズムだと教えられた。今、新聞社がジャーナリズムとは何かを説明しないといけない時代。記者が自分の言葉で説明し、どうすれば社会が変わるのか、読者と考える必要がある。新人記者も取材の1秒1秒がそういう瞬間だという自覚を持つことが必要じゃないかな。 小沢PE ジャーナリズムは情報を届けて終わりではない。世の中の課題はSNSの検索ワードでつながる運動だけでは解決せず、もっと複雑。新聞社が現場や個人に今以上にリアルに迫り、市民が語れる場も用意してほしい。 角田克・常務執行役員編集担当 デジタル化が急進展する中で、ジャーナリズムとは何か、メディアとは何かという根本が問われている。基幹メディアであり続け、読者の皆様の信頼に応え続けるためには、朝日新聞のジャーナリズムもまた再構築が欠かせない。基本は変えず、手法や手段は柔軟にという姿勢で、次なるステージへの歩みを速めていきたい。 (司会は野村事務局長) 青沼さん「記者の皆さんの思いを知ることができた」 「あすへの報道審議会」に参加した読者2人に感想を聞きました。 青沼ハンナさんは「リモート参加で映像や音声の不具合が心配でしたが、トラブルがなくてよかった」とホッとした様子。「記者の皆さんの新たな取り組みや記事に対する思いを知ることができ、貴重な体験ができました。もっと記者の皆さんに直接質問する時間がほしかったです」と振り返りました。 中野令子さんは審議会を前に、朝日新聞デジタルをじっくり見たり、音声配信サービス「朝日新聞ポッドキャスト」を聞いたりしたそうです。「コンテンツが充実している。紙の新聞とデジタル版がかけ合わさると、取材の過程も知ることができるなど記事をイメージしやすくなると感じた」と語りました。 ◇ パブリックエディター(PE) 読者から寄せられる声を幅広く受け止め、本社編集部門に意見や要望を伝える役割を担う。社外の識者3人と社員1人で構成。ほぼ毎週開いている会議や、特定のテーマを設けて年3回程度開く「あすへの報道審議会」で議論を重ねている。 […]
池袋暴走事故でトヨタが異例コメント「車両に異常なし」
東京・池袋で2019年、乗用車に母子がはねられ死亡した事故について、旧通産省工業技術院元院長の飯塚幸三被告=自動車運転死傷処罰法違反(過失運転致死)の罪で公判中=が運転していたハイブリッド車「プリウス」を生産したトヨタ自動車が21日、「車両に異常や技術的な問題は認められなかった」とするコメントを出した。 この事故でトヨタがコメントを出すのは初めて。特定の交通事故についてコメントを出すのも異例だ。トヨタ幹部は21日の公判終了後、取材に対し「プリウスに乗る全ての方に安心安全な車だとお伝えしたかった。メーカーとしての責務だ」と話した。 飯塚被告は公判で「車に異常があった」と無罪を主張してきた。被告人質問では「エンジンが異常に高速回転してパニックになり、ブレーキペダルを踏んだがますます加速した」と述べ、「ペダルの踏み間違いの記憶は一切ない」としている。 検察側は「飯塚被告がブレー… この記事は会員記事です。無料会員になると月5本までお読みいただけます。 残り:476文字/全文:871文字 Source : 社会 – 朝日新聞デジタル