正午のチャイムが鳴ると次々と客が入ってきた。 「いらっしゃーい。今日は何しましょー」 「玉子丼とミニそば。ネギとかす、大で」。常連客だろうか着席する前に歩きながら注文した。 テーブル席や壁際のカウンター席を合わせた約30席はみるみるうちに埋まっていく。 店の電話が鳴る。出前の注文が入った。 「かつ丼ときつねそば。はいありがとう」 厨房(ちゅうぼう)では店主の見沢篤規さん(51)が五つのコンロの面倒をみながら、湯がいたうどんの湯切りをしている。 ここは、和歌山県庁の地下1階にある定食屋「信濃屋」だ。 県の記録によると、信濃屋は1982年10月に県庁内の別の場所で営業が始まった。当初はカウンターだけで、うどんとそばの店だった。大阪市の製粉会社で働いていた篤規さんの父、資規(もとみ)さん(86)が「脱サラ」して始めた。家族経営で、2010年度から現在の場所だという。 しかし、3月末でその歴史に幕を下ろすことになった。 何でも対応「カレーうどんにご飯をかけて」 42年近く「お堅い仕事」の… この記事は有料記事です。残り855文字有料会員になると続きをお読みいただけます。 ※無料期間中に解約した場合、料金はかかりません Source : 社会 – 朝日新聞デジタル
「なべ部こそ地方創生の場」 若者とお年寄りが夕食でゆるくつながる
大学生や社会人、地元のお年寄りなどさまざまな人が一緒に夕食を囲むひとときが月に一度、鳥取市用瀬(もちがせ)町の一軒家に訪れる。通称「なべ部」。見ず知らずの人や世代が違う人同士が交流を深め、過疎化が進む地域のにぎわいづくりに一役買う場になっている。 国道53号から細い生活道路に折れた住宅街にある一軒家「もちがせ週末住人の家」。2月の週末の夜、大学生や地元住民ら18人が集まっていた。食卓には鹿肉のトマト煮込み、野菜と豚肉のマヨネーズ炒め、市販のルーを使わないシチューなど、大学生の手による作りたての料理が並ぶ。簡単な自己紹介の後、おなかをすかせた若者たちが争うようにご飯をよそい始めた。 なべ部が開かれる週末住人の家は元々、民泊施設だった。現在も建物の管理を続ける鳥取県大山町の企画会社「週末住人」共同代表の岩田直樹さんが、鳥取環境大(鳥取市)の学生だった2017年に開業。その際、地元住民との親睦の場として考えたのが夕食を囲む場だった。 現在、なべ部は後輩に当たる鳥取環境大3年の南本大偉(だい)さん(21)を中心に学生が運営。日程調整やSNSによる開催告知、会計も担う。食材は地元スーパーなどから調達し、メニューは料理好きの学生が考える。参加費(社会人千円、学生500円)を払えば誰でも歓迎される自由な「宴会」だ。 「ここではよそ者と思わず受け入れてくれる」と話すのは、三重県出身で鳥取環境大3年の堀友貴人(ゆきと)さん(21)。毎回シェフ役になり、作った料理を食べてもらう喜びを感じているという。普段はあまり接点がない他大学の学生や社会人とのおしゃべりで盛り上がる。「コミュニケーションの取り方など、ここでの経験が生きる」と就活にも役立てるつもりだ。 早稲田大3年の馬屋原瑠美さん(21)は笑いの輪に加わりながらカニ鍋をおいしそうに味わっていた。広島県出身。まちづくりに関心があり、大学院進学を目指している。知人の紹介で昨年11月に初参加、楽しさが忘れられず休みを利用して、再訪した。「縁もゆかりもない私が用瀬の人と出会った。まさにこれが地方創生の場でしょう?」 用瀬町は山陰と山陽を結ぶ街道の宿場があった交通の要衝。人口は合併前の昭和30年代に6500人近くあったが、現在は半減。市内に5カ所ある過疎地域の一つだ。 この日は地元住民3人が参加。松本典征(のりゆき)さん(85)は通りに若者の姿がないことが寂しく、交流を求めて毎回顔を出しているという。「いろんな人と話していろんな収穫がある。若い人が集まってくれるのは地元にとって刺激になる」。なべ部をきっかけに地元のカフェを訪れたり、祭りに参加したりする若者もいるという。 「こういう場を自分の町にも作りたい」。鳥取県境と接する兵庫県新温泉町の会社員、脇本充さん(44)も古里の過疎化と高齢化が気がかりで、なべ部の常連になった。この夜も顔なじみの学生たちとにぎやかに談笑した。ここで知り合いになった若者たちが新温泉町に足を運ぶようになれば活気づくと考えている。 自治体側もなべ部の活動を好意的に捉えている。鳥取市用瀬町総合支所の太田潤一支所長は昨年6月に参加した。「(地域住民と関わる)関係人口の増加などと堅苦しく考えなくても、ゆるい輪が広がっている。これが用瀬ファンにつながれば」と見守っている。年末にも別の支所職員2人が参加したという。(清野貴幸) Source : 社会 – 朝日新聞デジタル
長崎・南島原で住宅が全焼 3人と連絡取れず
2024年3月8日 10時04分 8日午前1時10分ごろ、長崎県南島原市布津町で、「自宅が火事だ」と119番通報があった。県警南島原署によると、木造平屋建てと増築部分の鉄骨2階建て住宅が全焼した。この家には4人が住んでいて、消防に通報した50代男性は避難して無事だったが、80代の父親、50代の妻、20代の息子と連絡が取れていないという。父親は1階、無事だった男性を含む3人は2階で寝ていたとみられる。 島原広域消防本部によると、火災は約4時間後に鎮火した。南島原署などが出火原因を調べている。 有料会員になると会員限定の有料記事もお読みいただけます。 ※無料期間中に解約した場合、料金はかかりません Source : 社会 – 朝日新聞デジタル
神岡鉱山内に産廃、現場写真を入手 廃車・廃重機など長期間放置か
嶋田圭一郎2024年3月8日 6時00分 神岡鉱山(岐阜県飛驒市)内に産業廃棄物が放置されていた問題で、朝日新聞は現場の様子を撮影した複数の写真を入手した。写真には、タイヤが外れたり、車体がさびたりした車などが写っていた。長期間放置されていたことがうかがえる。写真の撮影場所について、鉱山を経営する神岡鉱業は取材に「現場と思われる」とした。 同社によると、現場は1990年以降に大規模な採掘をやめた旧坑2カ所。同社の鉱山部が鉄くずなどを一時的に保管し始めたものの、時期は不明だが廃棄物も置くようになったという。昨年9月に経済産業省から不適切だとの指摘を受け、撤去を進めている。 鉱山関係者によると、写真は2022年秋と23年夏に撮影した。現場の一つ、鉱山部事務所から1キロ以上離れた栃洞(とちぼら)坑の「S1(エスイチ)」と呼ばれる場所で撮った。十数年前に足を踏み入れた際、複数の廃車や廃タイヤ、廃重機、鉄くず、廃プラスチックなどが放置されていたという。 この鉱山関係者は「廃棄物を捨てる場所だった」と話す。鉱山部事務所では「処分費がかかるから、S1でいいやろ」との声も聞かれた。使わなくなった長さ100メートルを超えるケーブルや廃材などを車で現場まで運んだという。 もう一つの現場、茂住(もずみ)坑の「東3号」と呼ばれる場所にも「捨てたことがある」とも証言。「イタイイタイ病の被害地域の人たちをだましている気がして、罪悪感があった」と説明。「誰かに言わないといけないと思っていた」とも話した。 一方、同社鉱山部長は昨年11月の取材に約20年前に現場にはすでに車や重機などが放置されていたと説明。今回の経産省の指摘を受けて改めて現場を確認したところ、「放置されたものが増えていた」とした。 この問題は昨年9月の経産省や岐阜県の立ち入り検査で発覚した。関係者によると、検査ではこの鉱山関係者の証言とほぼ同じ状況が現場で確認されたという。(嶋田圭一郎) 有料会員になると会員限定の有料記事もお読みいただけます。 ※無料期間中に解約した場合、料金はかかりません Source : 社会 – 朝日新聞デジタル
震災が結んだ絆は私をプロにした 元サッカー少年が受け継ぐ東北の魂
2月25日、J2仙台の開幕戦となったアウェーの大分戦。後半28分、背番号「28」のFWがピッチに飛び出した。 菅原龍之助(23)。プロ2年目をむかえるストライカーだ。 存在感を放ち始めたのは昨季の最終節、町田戦。J2王者に苦戦する中で、右CKから始まったクロスに、181センチの上背を生かした得意のヘディングで合わせた。菅原にとってホームでの初得点だった。 「ユアスタ(ユアテックスタジアム仙台)でゴールするのが目標だった。プロとしてのスタートラインは、ここからです」 仙台のジュニアユース出身。しかし、ユースから直接トップに上がれなかった。大学に進み、プロをめざす。頭角を現し、複数のクラブからオファーがあったが、迷わず仙台を選んだ。「自分はユアスタの応援で育ったから、プロとして仙台に帰りたかった」 宮城県石巻市湊地区で生まれた。6歳でサッカーを始め、小学校のときは10分間の休み時間でもボールを持って校庭に行き、20分くらいサッカーをして先生に叱られる。どこにでもいるサッカー小僧だった。 しかし、2011年3月11… この記事は有料記事です。残り1329文字有料会員になると続きをお読みいただけます。 ※無料期間中に解約した場合、料金はかかりません こどもと被災地 東日本大震災が起きてからの13年という月日は、子どもが大人へと成長するほどの長さです。それぞれの土地で暮らす子どもたちの物語。[もっと見る] Source : 社会 – 朝日新聞デジタル
「あふれる人間愛」教え子ら悼む 五百旗頭真さん、会議後に倒れ急死
有料記事 鈴木春香 熊谷姿慧2024年3月8日 6時30分 西宮市出身で神戸大学名誉教授の政治学者、五百旗頭真さんが亡くなった。歴史や外交、行政、災害などの幅広い知見を持ち、県のアドバイザー的な役割も果たしていた。温かい人柄で知られ、関係者らは突然の死を悼んだ。(鈴木春香、熊谷姿慧) 五百旗頭さんが理事長を務めていた「ひょうご震災記念21世紀研究機構」(神戸市)によると、五百旗頭さんは6日、午後に出勤。午後2時から30分ほどオンライン会議に出て理事長室に入った後、ソファに倒れているのが見つかった。すぐに病院へ搬送されたが、搬送時に意識はなかったという。 「日本はひとつの見識を失ったということではないか。県は貴重なアドバイザーを失った」。7日取材に応じた、井戸敏三・前兵庫県知事は語った。 五百旗頭さんの教え子で、神大院教授(日米関係)の簑原俊洋さんは、「人間愛にあふれた人だった。学者として尊敬するだけでなく、心の広さでこの方以上の人はいない」 印象に残る言葉は「歴史は人… この記事は有料記事です。残り748文字有料会員になると続きをお読みいただけます。 ※無料期間中に解約した場合、料金はかかりません Source : 社会 – 朝日新聞デジタル
朝日新聞厚生文化事業団から日赤に寄託 能登半島地震救援金約2億円
朝日新聞社と朝日新聞厚生文化事業団は7日、能登半島地震の被災者のため2月6日までに寄せられた救援金7773件、計1億9625万6590円を、第1期分として日本赤十字社へ寄託した。同社を通じて支援に役立ててもらう。同事業団の藤井龍也理事長が東京都港区の日本赤十字社本社を訪れ、清家篤社長に目録を手渡した。 2月7~29日に受け付けた救援金は、4月下旬までに順次寄託する予定。 有料会員になると会員限定の有料記事もお読みいただけます。 ※無料期間中に解約した場合、料金はかかりません こどもと被災地 東日本大震災が起きてからの13年という月日は、子どもが大人へと成長するほどの長さです。それぞれの土地で暮らす子どもたちの物語。[もっと見る] Source : 社会 – 朝日新聞デジタル
浴槽に放置の5歳児死亡、保護責任者遺棄致死罪で母と内縁の夫を起訴
渡部耕平2024年3月7日 19時22分 青森県八戸市で1月、宮本望愛(のの)ちゃん(当時5)に自宅の浴槽内で水をかけて放置し、低体温症で死亡させたとして、いずれも無職で母親の宮本菜々美(22)と内縁の夫の関川亮(31)の両容疑者が傷害致死の疑いで逮捕された事件で、青森地検は7日、2人の罪名を保護責任者遺棄致死罪に切り替えて起訴し、発表した。 起訴状などによると、2人は共謀して1月7日午後5時すぎ、市内の自宅で望愛ちゃんを浴室に連れて行き、服の上から水をかけて4時間以上放置し、低体温症で死亡させたとされる。 捜査関係者によると、関川容疑者はトイレを失敗した望愛ちゃんに「しつけ」と称して水をかけ、浴槽から出られないように閉じ込めていたという。宮本容疑者は、関川容疑者による虐待を黙認していたとみられる。 望愛ちゃんは、水の入った浴槽にうつぶせに倒れているのを宮本容疑者に発見され、病院に搬送後、死亡が確認された。当時、浴室内の温度は10度以下で、司法解剖の結果、望愛ちゃんの体の中心部の体温である深部体温は、重症とされる20~28度まで下がっていたという。(渡部耕平) 有料会員になると会員限定の有料記事もお読みいただけます。 ※無料期間中に解約した場合、料金はかかりません Source : 社会 – 朝日新聞デジタル
地質スケールでみる能登半島地震 日本海の誕生からつながる変動
強い揺れと津波、4メートルに及ぶ隆起をもたらしたマグニチュード(M)7・6の能登半島地震。発生前、地下で何があったのか。日本列島と日本海の成立から東日本大震災までかかわる大変動が背景にあるという。 地質のタイムスケールでみれば、2011年の東日本大震災は最近の出来事だ。M9の巨大地震の影響が能登半島地震にも及んだ可能性を、京都大防災研究所の深畑幸俊教授は指摘する。 巨大地震の発生前、本州は主に東西方向に押されて縮んでいた。縮むスピードが速い新潟から神戸にかけては「ひずみ集中帯」と呼ばれ、地震が起こりやすいとされた。 能登半島はひずみ集中帯からは外れているが、やはり北西―南東方向に押されて縮んでいた。 ところが、東日本大震災時、宮城県牡鹿(おしか)半島周辺で最大5メートル以上も東向きに地殻がのび、1メートル以上沈降した。地殻変動はその後も続く。 地球表面の硬い層の下には、長い時間をかけて流動する層がある。その層は、硬い層が動いた後に流動的となって表層の動きに逆らわなくなる。こうした影響で、本州が東西に縮む速さは鈍化、能登半島を押す力も小さくなった。 水はどこからきたのか ならば地震は起こりにくくなりそうなものだが、地下の現象は複雑だ。 「ふだんは、ぎゅうぎゅうに押されて、能登半島の地下深いところから上がってこられなかった水が、押される力がゆるんで上がってこられるようになったのではないか」と深畑さんは推定する。水があると岩盤が弱くなり、地震は起こりやすくなる。 水はどこからきたのか。東京… この記事は有料記事です。残り1351文字有料会員になると続きをお読みいただけます。 ※無料期間中に解約した場合、料金はかかりません こどもと被災地 東日本大震災が起きてからの13年という月日は、子どもが大人へと成長するほどの長さです。それぞれの土地で暮らす子どもたちの物語。[もっと見る] Source : 社会 – 朝日新聞デジタル
伊方原発の運転差し止め認めず 原告弁護団「四電の主張をうのみ」
有料記事 倉富竜太 安田朋起2024年3月7日 19時32分 【動画】四国電力伊方原発の運転差し止め訴訟で、原告の請求が棄却された=飯野祐平、高嶋健撮影 四国電力伊方原発3号機(愛媛県)の運転差し止めを大分県民569人が求めた訴訟で、大分地裁は7日、訴えを棄却する判決を言い渡した。武智舞子裁判長は、主な争点だった地震と火山噴火に対する安全性について、対策は十分とする四電の主張をほぼ全面的に認め、「不合理な点はない」と判断した。原告は控訴する方針。 伊方3号機は、豊後水道を挟んで大分県の対岸にある。原告側は、四電が地震を想定する中央構造線断層帯より原発に近い位置に、別の活断層が存在する可能性を指摘。地下構造を詳しく探れる「三次元探査」で把握するべきだ、などと主張していた。 判決は、四電がボーリング調査や海底下への音波探査などを適切に組み合わせて地下構造を把握しており、三次元探査を行わなくても不合理ではないと判断した。火山についても、四電が想定した噴火規模や火山灰の降下量は合理的と認定。3号機が安全性に欠けるとは認められない、と結論づけた。 3号機をめぐっては、住民が… この記事は有料記事です。残り402文字有料会員になると続きをお読みいただけます。 ※無料期間中に解約した場合、料金はかかりません Source : 社会 – 朝日新聞デジタル