新屋絵理
2011年の東京電力福島第一原発事故で、津波対策を怠ったとして業務上過失致死傷罪で強制起訴された旧経営陣3人の控訴審が2日、東京高裁(細田啓介裁判長)で始まった。検察官役の指定弁護士は、3人を無罪とした一審判決の破棄を求め「国の地震予測で津波襲来は予見できた」と訴えた。旧経営陣の弁護側は改めて無罪を主張した。
東電の勝俣恒久・元会長(81)、武黒一郎・元副社長(75)、武藤栄・元副社長(71)の3被告は津波を予測できたのに対策せず事故を招き、避難を余儀なくされた双葉病院(福島県大熊町)の患者ら44人を死亡させたなどの罪に問われた。不起訴になったが、検察審査会の議決で強制起訴されていた。
同罪の成立を争う裁判の争点は①津波発生を予測できたか(結果予見の可能性)②防止策は講じられたか(結果回避の義務)。
旧経営陣の弁護側 国の地震予測を疑問視 「津波の危険性認識できず」
19年の一審・東京地裁判決は、国の地震予測「長期評価」に基づく巨大津波予測は3人に伝えられたと指摘。だが、長期評価の信頼性を否定して「原発の運転を停止するほどの予見可能性はなかった」と説明し、①②いずれも否定した。
指定弁護士はこの日、長期評価について「我が国唯一の公式見解で科学的根拠がある」と強調し、一審が①を否定したのは「重大な誤り」と主張。②について一審が防止策を運転停止に限った点は「防潮堤建設など別の対策まで広げて判断すべきだ」と訴え、裁判官らによる原発の現場検証を求めた。
これに対し弁護側は、長期評価は信頼性に疑いがあり、津波の危険性は認識できなかったと反論した。3被告のうち勝俣元会長は出廷しなかった。
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル